俺には、『嫌いな人』というのがいなかった。
何十人も病院送りにした狂気に歪んだ同級生も。
無理やり身体に迫ってくる息の荒いオヤジも。
酷い言葉を浴びせ俺を嘲り憎み絶対的に否定した元恋人も。
多少怯え、嫌悪し、傷ついても。
人を、誰かを『嫌い』になることはなかった。
なれなかった、のかもしれない。
何年も前、俺は自分に『後悔』という感情がないことに気付いた。
そしてその数年後、今度は自分に『怒り』という感情がないことに気付いた。
言葉は知っている。それがどういうものかも知っている。それを感じる人たちを理解することもできる。
だが、知っているはずのそれらが一向に自分の中に沸き上がらないのだ。
はた、と、歩みを止める。
自分の中の『感情』の灯が、ひとつ、またひとつと、小さくなっていくような気がした。
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