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「明日、カラオケ」
言葉少ななヘッドの言いたいことを、イルマは当然のように読み取る。
「へーぇ、カラオケぇ?」
わざとらしく語尾をのばす言い方に、思わず小さく吹き出してしまった。
「イルマも、来る?」
こうなることは決定事項だった。ヘッドがイルマを誘わないわけはないし、もしイルマが賭けについて聞いてこなくても、ヘッド自ら切り出していただろう。
「え、イルマ、来んの?」
イチが、動揺したように言う。
それはそうだ。イルマとカラオケ、最凶の組み合わせである。
「だめっすか? そんなに嫌なら行かないっすよ」
あはは、と軽い声で笑うイルマ。元々、どうしても行きたかったわけではないようだ。
……ではなぜ、イルマはわざわざ話に割り込んだのか。
俺をヘッドのプレッシャーから逃がすため、か?
今まで幾度となく抱いてきた疑問だ。
イルマには他人に向けられたヘッドのプレッシャーが『わかる』のか。そしてそれを意識的に解除しているのか。
「嫌じゃねえよ! よし、来いイルマ!」と慌てるイチに、「じゃあご一緒させていただきます」と相変わらずの笑顔と礼儀正しさで返すイルマ。
俺とイチはタメである。そのためイルマは最初、堅苦しい新入社員のような敬語で接してきた。敬語はいらないと告げた後も、崩れてはいるものの、一応敬語で話しかけられる。
俺たちの頭であるヘッドが「ハルさん、イチさん」と敬称をつけるのも、イルマの影響だと思われた。
さっきだって、ヘッドとイチの賭けの賞品に横から手を伸ばすなんて、他の奴には考えられない。イルマ、金あるくせにたかるなよ。しかし、おそらくイルマには裏も表もないんだろう。他の奴がどう思うかは知らないが、俺はむしろ俺にビビって媚びてくるような奴より、よっぽど楽に付き合える相手に思えた。
イルマの中では、俺たちは皆『対等』なのだ。この人間であることが疑われる程の我らがヘッドでさえも。
一体いくつ引き出しがあるのか、このイルマと呼ばれる男には。
これだから、こいつといるのには飽きないんだ。
「よし、じゃあハルも強制参加な」
「は?」
イチの突然の提案にたじろぐ。
カラオケ、だと?
断ろうとした。何が楽しくて、族の幹部で行くんだ。場違いすぎるだろ。
しかし、イチの言葉に目を輝かせて俺を見るイルマの視線とヘッドの無言のプレッシャーに当てられては、頷く以外に道はなかった。
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