イルマという男について
※ハルSide
「イルマ! 大丈夫か!? 痛いとこはないか? むず痒いとこは!? 熱いところは!! もうっ、上半身こんな無防備に晒して! ダメじゃない!!」
「イチさん…テンパりすぎてオネエ口調になってます…」
「あてくしのことはいいの!
自分の身体を心配しなさい!」
目の前でソファに座らされたイルマが、うちの特攻隊長のイチにベタベタと身体を触られて取り調べられている。イルマは自然な苦笑いで…というのもおかしいが、とにかくいつも通りの雰囲気で大人しくイチにされるがままになっている。
試しに、声をかけてみる。
「イルマ。上着なくていいのか?」
「え? あ、着ます着ます。えっと…シャツ…」
「俺の貸そうか」
「あ、あざっす…って、持ってたんすかハルさん!」
いつもどおり笑顔のツッコミだ。それはもう普段と変わらない対応で、先ほどの雰囲気の欠片もない。
それにホッとすると同時に、少し物足りなさを感じる。
順応性が高く大抵のことには動じないイルマだが、先ほどの、野生をむき出しにした俺にも、その心を揺さぶることは出来なかったのだろうか。
「イルマ、あいつに何をされた? 言いなさい」
イチがイルマの両肩を鷲掴んで問いただしている。
てめぇいい加減触るのやめろや。
「な、なんもされてないっす!」
「本当かイルマ? 正直に言えよ?」
そう言われてしまえば、イルマは嘘がつけない。他人に関わることはほぼ黙っているイルマだが、「嘘をつくな」と言われるとおずおずと真実を話しだす。まったく、素直すぎるだろ。
しかし重要な秘密や言うなと言われたことは、例え歯を全部折られたとしても吐かない。それは俺たちが身を持って知っている。
得体の知れない、深みのある人間だと思う。
イルマがチラリとこちらを伺ってきたので、苦笑を浮かべながら小さく頷いてやった。
「えと、乳首をいじられました」
「ちっ…!? てめぇくそハルごるぅぅぁぁあああ!!」
「わーイチさんしずまれ! 俺別になんともないし!」
俺に殴りかかろうとしてきたイチを、イルマが後ろから羽交い締めにする。
いつも思うのだが、うちほどのチームで特隊をはるイチを力で押さえ込むなんて、イルマも大概普通じゃない。
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