ハルさんとおしゃべり
「ハルさん着替えあります? シャツもベタベタだったんで洗っちゃったんすよ」
「今日は持ってねーな。もうすぐジンたちが帰ってくっから、ここで待ってな」
そう言いながら、ハルさんは俺の左腕を手に取る。
「包帯も濡れてんじゃねーか」
俺の左腕に巻かれた包帯。肘から手首までと、二の腕の2ヶ所。
「そっすねー。でも生傷じゃないし、家帰ってから換えますわ」
「換えてやるよ」
そう言って煙草をもみ消し立ち上がったハルさんは、端の方の棚から救急箱を持ってきた。
ハルさんに救急箱って…似合わねぇ!
「なんかすんません。貴重な包帯を」
「気にすんな。包帯なんて腐るほどあるし、いざとなればアロエでも巻きつける」
アロエって…! おばあちゃんの知恵袋!
不良がみんなでアロエを育てている風景を思い浮かべて、密かに笑った。
ハルさんの手を煩わせる前に、自分でサッと包帯を外した。元々傷を抑えたり固定したりという目的でなかった包帯は、3〜4周で取れる。
「……」
チラリとハルさんがその傷跡を見たが、手は止めずにすぐに視線を戻す。その気持ちはたぶん俺にもわかるので、何も言わないでいてくれるのはありがたかった。
その傷はいわゆるリストカット、アームカットというもの。手首のは剃刀、二の腕のはハサミでつけた傷だ。
剃刀で切りつけた方は、そんなに深く切ったつもりはないのに、無数の傷が赤くはっきりとミミズ腫れのようになっている。二の腕の方も、ただの工作ハサミで切った割にはくっきりだ。これはだいぶ前の傷だから、どうやら俺は傷が残りやすい皮膚らしい。
ハルさんが手際よく包帯を巻きつける。
「毎度ながら、ゴツい手が器用に動いてるの見ると笑っちゃいますね」
ほんとに吹き出しながら言ってみた。するとハルさんの口元もゆるむ。
「俺は医者志望だからな。さらに言えば保険医」
笑ってしまった。ハルさんみたいのが保健室にいたらやだ! 保健室にはムチムチのセクシーお姉さんと決まっている。
「皮肉ですね。ハルさんの夢が叶ったら、全国の少年たちの夢が壊される」
「そんな奴らには、俺が新しい夢を見させてやるよ」
「ひでえ! 何する気っすかハルさん。ハルさんが言うと洒落にならない!」
もう爆笑だ。30歳くらいのハルさんが保健室で少年たち相手にナニをするのか想像すると、恐ろしすぎて笑えてくる。
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