その教師は「高橋朋成」といった。高橋は俺に寿司の食べ方を教え、「ここに来たことは内緒で頼むな」と小さく笑った。

怒らないのか。怖がらないのか。俺を否定しないのか。何故こんな所に連れてきたのか。いろんなことが気になった。とりあえず「教師なのに怒らないのか」と聞いてみた。すると高橋は

「生徒をこんな時間に連れ回している時点で俺は教師失格なんだ。俺も悪いことをしているんだから、君らを怒ることはできないよ」

と、少し悲しそうに笑った。

高橋は、俺を「許した」2人目の人間だった。

それから俺は高橋を「先生」と呼ぶようになり、峰と2人でよく会いに行った。峰は以前から先生と関わりがあったようで、随分と親しげだった。会うのは大抵生物室で、峰と先生の会話をただ聞いていた。

授業の準備をしたり、たくさんの模型の手入れをする先生を、峰は自分から手伝う。そんな峰に先生が「ありがとう」と言うので、ふと自分も言われてみたくなって俺も手伝った。先生に言われた「ありがとう」は特に大きなものではなかったけど、なんとなく、また聞きたいと思った。

俺たちが俗に言う「悪いこと」をしても、先生は怒らなかった。その代わり「残念だな」と悲しげに笑うのだ。それを聞くと、それまで1ミクロンも感じたことのなかった「罪悪感」が湧いてきた。

「君らにはそんなことしてほしくないんだけどな」と先生が言うので、俺はだんだん「悪いこと」を我慢するようになった。けれどどうしても我慢できなくて悪いことをし、結果自分の手に負えなくなると先生に頼った。先生は「よく俺に話してくれたな」と頭を撫でてくれ、いつも的確な助言をくれた。

そんな俺とは違って、峰は罪悪感を感じないようだった。いや感じているのかもしれないが、少なくとも我慢はしない。以前は常に2人並んでいたのが、俺はだんだんと一歩下がったところで峰を見るようになっていった。

 

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