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俺はいつでも「許されない人間」だった。俺がしようとしたことを許されたことがない。小さいころは、来るなしゃべるな近寄るな、でかくなると、殴るな盗るな吸うな飲むな。どこに行っても「〜するな」がついて回った。
けれど俺を「許した」人間が、今までに2人いる。1人は峰(みね)といった。高校に入ってから知り合い、いつものように人を殴っていた俺に「楽しそうだね、俺もまぜてよ」と笑いかけてきた。
峰は殴るのがうまい。俺より随分背が低いのに、誰にも馬鹿にされない。いつも堂々としていて、俺のやることをいっさい否定しなかった。俺はそれがとても楽で、よく峰と一緒にいた。
俺と峰は夜になると寮を抜け出し、街に下りた。そこで酒を飲んだり誰かを殴ったりして夜通し過ごす。
峰の周りには常に他の奴らがたくさんいた。けれどみんな俺には近付いてこない。何故なのかわからなくて峰に聞いてみると、「みんないつかチヒロに殺されるかもって思ってるんだよ」と笑われた。
そうかもしれない。もし誰かが俺を怒らせるようなことをしたら、いつか殴りすぎて殺してしまうかもしれない。峰は俺を怒らせないとわかっているから一緒にいるが、他の奴らにはその保証がない。俺は夜の街でも、ずっと峰だけのそばにいた。
あるとき、ドジって警察に捕まった。峰と一緒だったが、2人とも反省など全くしていなかった。そうしなければならない理由もわからない。相手が俺たちを怒らせたから殴っただけだ。父親がずっと俺にそうしてきたように。
警察に捕まった俺たちの元に、1人の教師が現れた。「あ、先生〜、ごめん捕まっちゃった〜」と笑う峰をポコンと殴って、そいつは「バカたれ、心配したんだぞ!」と俺たちの頭を乱暴に撫でる。それから警官に、
「この子たちがご迷惑をおかけしました。こちらからよく言って聞かせますので、今日はこの子たちを返してください!」
と頭を下げた。
俺は、峰が殴られたまま黙っていることにまず驚いた。そして「心配した」と言われたことにも驚愕した。中学でも警察に捕まったことが何度かあったが、来た教師はみんな警官に平謝りするか、俺を見るなり怒鳴りつけるかだったのに。
警察から厳重注意で開放された帰り道、そいつは俺たちを寿司屋に連れて行った。峰は「回転寿司かよー」と文句を言っていたが、俺は「回転寿司」が初めてだったので、勝手がわからず戸惑うばかりだった。
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