それまでの人生は最悪だった。

幼い頃から、父親はよく俺を殴った。素手でもだし、一升瓶や金属バットなんか日常だった。あまり目立たないが、俺の頭は右側が少しへこんでいる。

母親はいつも俺を庇った。泣きながら父親にすがりついて、もうやめてくれと叫んだ。父親は母親を、おまえと結婚なんてするんじゃなかった。結婚なんてしたくなかった。こいつができたから結婚するはめになったんだ。こいつを孕んだおまえが悪いと、攻め続けた。

父親が俺を殴るのに飽きると、母親は泣いて顔をぐちゃぐちゃにしてごめんね、ごめんね、と謝った。俺はそれを聞きながら、自分で手当てをする。母親は決して俺に触らない。名前を呼ぶのも、父親に命令された時だけだった。

学校では、背が低い、不潔、しゃべらないなどという理由でいじめられた。クラスメイトも教師も基本俺を無視、話しかけられるのは、命令か罵倒のどちらかしかなかった。

10歳になったころ、母親が消えた。今でも、どこで何をしているのかわからない。父親は激怒して、母親が消えた日から1週間、俺を地下室に閉じ込めて一歩も出さなかった。時折気まぐれに下りてきては、おまえが悪いんだと、俺を殴った。

中学に入ると、何故か父親は俺にまともに食事を与えるようになった。名前を文字って「チビ郎」と呼ばれるほど背が低かった俺は、一気に身長が伸びた。それから父親は、よく俺を夜の街に連れ出すようになる。そこで「人間の殴り方」をいろんな連中から教わった。学校でそれをやってみると、誰も俺をいじめなくなった。命令も罵倒もされなくなり、気付けば俺がそれをする側になっていた。

中学を卒業するころ、父親が自殺した。何かをやらかして警察に追われていたとき、自分から歩道橋を飛び下りたらしい。トラックに跳ねられ即死だった。

進路の決まっていなかった俺を、父親の両親は全寮制男子校なる所に放り込んだ。父親の実家は金持ちだったが、子供は父親1人だったとか。それで何故俺をこんな所に入れたのか、頭の悪い俺にはわからない。

高校に入っても、俺は相変わらずだった。虐められるか、俺が殴るか。それしか生き方を知らない。もちろん虐められたくはないから、俺はちょうど父親のように、弱い奴を殴り続けた。たまに強い奴に殴られたので殴り返すと、すぐに誰も俺に近付かなくなった。みんなは「友達」とか「連れ」がいるようだったが、俺はそれがなんだか知らない。

 

[ 4/26 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -