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「もうすぐテストだね西織」
いつものように生物室でだらけていると、唐突に先生がそう言った。
「うん」
「2年で最初のテストでしょ? 1年ときの西織の成績を見る限り、余裕だとは思えないけどな」
「うん」
「授業もろくに出てないし、ちょっとは学業にも励まないと」
「うーん」
「……西織」
「えーと…」
「……肝臓は胃のそばだよ」
「あ」
そうだった。
右手に持っていた肝臓の模型を、腹を切り開かれた人形にはめ込む。
最近この遊びにハマっている。一度臓器を全て取り出して、1からはめ込み直していく遊びだ。ちなみに俺が編み出した。
「はぁ……西織はパズルとか好きそうだね」
ちょっと眉を下げて先生が笑った。
「パズル? なにそれ」
聞き慣れない言葉に先生を振り返る。
「え、子供の時とか、やらなかった?」
子供の時……。
そう言えば、小学校のころ、クラスの奴らがやってたかもしれない。俺は見せてすらもらえなかったけど。
「って、それはいいんだよ。テスト勉強しなきゃって話だよ」
「あれ、先生。これはどこだっけ?」
また模型を手に取り訊ねると、深いため息が聞こえてきた。
「さて、俺は次授業があるから行くよ」
人形に内蔵を全てはめ込み終わった頃、チャイムが聞こえて先生が立ち上がった。
思わず、じっと目で訴えてしまう。
「……そんな目で見てもだめだよ西織。俺は授業サボれない」
先生にそう言われて、無意識に頬の内側に空気をためた。
「ちょ…っ! はぁ、なんでそんな顔するかなぁ」
それを見た先生は何故か少し慌てたようで、首を振りながら苦笑いをした。
そんな顔って。
俺は元からこの顔だけど。
「また今度ね。西織も授業行ってみたら?」
片手を伸ばして頭を撫でられる。
俺の頭を撫でるのは先生しかいない。初めて撫でられたときはその行為の意味がわからなかったけれど、今はなんとなく、先生の手で落ち着ける俺がいる。
ふと、先生が抱えた教材に目がいった。
正確には、その裏表紙の隅に書かれた『高橋朋也』という文字に。
「…どういう意味?」
「えっ?」
「これ」
指を指して文字を示す。
「『朋』って字。月がふたつで、なんでトモ?」
「え? えーと…なんでかなぁ。国語は専門外だからなぁ」
自分の名前を見ながら頭を掻く先生。
「国語の先生に聞いてみたら?」
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