けれどまぁ、気にするほどでもない。食えないわけではないから食べようと、また寿司に手を伸ばした。

その時。

不意に、取ろうとしていた寿司が消えた。横からのびてきた手に奪われたのだ。

隣を見ると、黒髪で背の高い男。奪った寿司を食べると、そいつはニヤリと笑った。

気がつけば、食堂内はまた静まり返っていた。

向かいの席で固まっている小野が視界の端に写る。

寿司をゴクンと飲み込み、そいつは言った。

「西織チヒロ、だろ? 食堂なんて珍しいじゃねぇか」

いきなりそんなことを言われても、どうしていいかわからない。

とりあえず、残りの寿司をそいつの方に押しやった。

「ど、どうしたの西織くん。口に合わなかった?」

小野は何故かオドオド、黒髪の奴は不思議そうに俺を見た。

「まずくはない。…けど」

「…けど?」

「回転寿司の方がいい。全皿100円のやつ」

前、先生に初めて会ったとき、連れて行ってもらった回転寿司。俺的には、あっちの方がいい。また食べたいと思う。

一瞬空気が止まったあと、黒髪が「ぶはっ!」と噴き出した。

そいつは爆笑、小野はオドオド、俺は驚きながらそいつを見つめるしかなかった。

「おま、ここの料理はな、俺の家が雇った3ツ星シェフが作ってんだよ! それを回転寿司の方がいいって…回転寿司って!」

腹いてぇ! 傑作! と笑い続けるそいつに、俺は思わず口を半開きにしてしまった。

「ちょ、おまえおもしろ。話させろ話。ここ座っていいか?」

もうすでに俺の隣に屈みながら小野に訊く。

「は、はい!」

おい。俺の隣に座るのになんで小野に訊くんだよ。

「会長!?」

その声で気づいたけれど、会長と呼ばれた黒髪のうしろにはメガネとチャラいのとぬぼーっとしたのがくっついていた。

「あー、俺今日からここで食うわ。おまえらは専用席に行け」

メガネたちは納得いかないようだったが、会長が寿司を口に詰め込み始めたので、渋々離れていった。

会長は東雲と名乗った。俺と小野に好きなものとか休日の過ごし方なんかを聞きながら、東雲はあっという間に寿司を平らげた。

そして次々に追加注文をしていき、テーブルの上にはユニバーサルな料理が隙間なく並べられた。

「…よく入るな。細いのに」

そのあまりの食べっぷりにある種の清々しさを感じながら、口を零した。

 

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