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バカでかい扉を開けて食堂に入ると、どっかの城の大広間か、って思うような空間が広がっていた。
ここに入学して1年、昼は食べないか購買だったので、食堂に来たのはこれが初めてだ。
妙に静まり返って、ほぼ全校生徒のものと思われる視線が向けられるが、それは特に気にする必要もない。
食堂は「飯を食う場所」だから食堂なのであって、つまり俺は食う以外の目的は考えていなかった。
逆に小野は、食堂には来たことがあるらしいけど、かなり緊張しているようだった。
気持ちがわかるような気もする。
俺も小学生までは、「みんなで」食事をするのが苦痛だった。
あのとき、俺が欲しかった言葉はなんだろうと、考えてみたりする。
「大丈夫か?」
口に出してみたら実に薄っぺらい言葉で、少しがっかりした。
けれど小野は。
「うん大丈夫。ありがとう」
ほんとに少し安心したような顔で、笑うんだ。
端の方に空いた席を見つけて座る頃には、食堂はザワザワと波打っていた。
大きな音は立てないが、みんながこちらを注視しているのがわかる。それをほんの少しうっとおしく思いながらも、まぁいいかとメニュー表を広げた。
「…………」
けど読めない。
日本語じゃない。ローマ字くらいなら俺でも読めるが、これはローマ字ですらない、ように感じた。
やたらとくるくるしていて、細かい曲線がいくつもある。
ここは日本。伝統を重んじて墨と筆で漢字を書け。
半ばメニューを叩きつけるように閉じ、小野に訊いた。
「寿司って、メニューにある?」
「えっ、お寿司? あると思うけど…」
小野が端にあった機械をピッピッと操作し、しばらく待っているとウエイターが寿司とナポリタンを運んできた。
小野がウエイターに「ありがとう」と言うので、俺も真似して言ってみた。
ウエイターは何故か俺だけを凝視して固まった後、いつかの小野のように「どういたしまして」と笑って去って行った。
運ばれてきた寿司は、四角い皿に均等に並べてある。
どれもネタが違い、彩りも鮮やかで、それでいて派手ではない。
とりあえず、端から1つ食べてみる。
…………。
もう1つ。
………………。
思わず、首を傾げていた。
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