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ましてや俺たちは教師だ。生徒たちに「先生」と呼ばれるからには、その呼び名の重みと責任を、自覚しなければならない。
「子供は、1人では大人になれないんです」
『俺に殴り方を教えたのは、オトナだよ』
「西織がどんな大人になるかは、俺たち次第なんですよ」
「…………」
というか。
そんな教育的哲学を語る前に、俺にはどうしても納得いかないことがあった。
佐久間先生の自業自得と言っても過言ではない、事実。
「それに、最初に殴ったのは佐久間先生でしょう」
どうやら、それは地雷だったらしい。
「……ッ!! あれは殴ったうちに入らん! 俺のこの顔を見ろ、頬骨にヒビが入ったかも知れないんだぞ!」
そこまで言って、佐久間先生は何故か胸を張って腕を組んだ。
「そもそも西織はクラスメイトの財布から金を盗んだんだ。あの薬物乱用者の峰とも連んでいたしな。退学で済むだけでも感謝してほしいもんだ」
思わず、今度は俺が佐久間先生に殴りかかりそうになった、その時。
「会議中、失礼します!」
現れたのは、1人の小柄な生徒だった。
「今の話は本当だよね? 小野」
「はい…」
そんなことだろうとは、思ったんだ。
しかし真実を知れてよかった。西織は、このことに関しては何もしゃべらなかったから。
「わかりました? 佐久間先生」
「……」
今度は羞恥か怒りか、もしや佐久間先生の顔は元から赤いんじゃないだろうか。
「つまり、西織は金なんか盗んでないんですよ。小野と西織が仲良くなったのを快く思わない生徒たちが、わざと西織をはめたんです。まぁ、本人たちもここまで大事になるとは考えていなかったようですが」
小野の話では、小野は平凡という理由で他の生徒たちからいじめを受けていたらしい。それを西織が助けたことから仲よくなり、行動を共にするようになったが、それを快く思わない生徒がいた。
不良と恐れられる西織が近くにいたら小野を標的にできないし、西織もあれでけっこう顔がいいから、容姿を重視するこの学園で、西織と小野は釣り合わないということになったらしい。
「怒りに任せて教師を殴った罰は与えられても、西織が退学になる理由はなくなりましたよね。佐久間先生」
「…………」
「それから小野。よく真実を話してくれたな。すごく勇気がいったと思うけど、ありがとう」
小野は両目を大きく見開いて、嬉しそうに頷いた。
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