※高橋朋成視点


「西織チヒロは即刻退学にするべきだ!」

顔中にガーゼを貼って、真っ赤になって怒鳴るのは佐久間先生。西織の担任の先生だ。

この学園の全教員が集められた会議室内は、意見が完全に割れていた。

「私も佐久間先生に賛成です。これ以上西織チヒロに問題を起こされては適わない」

「しかし、西織の実家からは、この学園に多額の寄付金をいただいている。西織が退学となれば、この学園の存続の危険性もあります」

「第一、あの西織グループの会長直々に、孫を頼むと言われているんだ。我々には彼を卒業させる義務がある」

「しかし、このまま西織を抱え込んではそれこそ存続の危機ですよ」

会議は平行線をたどるばかり。

それにしても、みんな学園の存続とか寄付金とか、そんなことばかり気にしすぎじゃないのか。

「西織のような、何をやっても許される、金持ちで力があれば他人の迷惑を気にしなくてもいいなんて考えてる奴には、一度世間の厳しさを味わわせてやるべきだ!」

殴られたせいか、興奮のせいか、佐久間先生の顔は赤すぎて黒い。

確かに、その意見も一理ある。

学校じゃなく社会なら、人に危害を加えたなら警察に捕まってそれで終わりだ。

けれど。

「ここは学校です。そして我々は、教師です」

急に声を上げた俺に、他の先生方が怪訝そうな目を向ける。

中にはうっとおしそうに顔をしかめる先生もいたが、そんなことには構ってられない。

「学校とは、まだ肉体的にも精神的にも未熟な子供たちが通う場所です。我々教師は勉強を教えるだけでなく、彼らの模範となって、正しい道に導くのが役目ではないでしょうか」

「何が言いたいんですか、高橋先生。そんなことは百も承知ですよ。だからこそ、世の中の厳しさを教えてやろうとしているんだ」

佐久間先生の眼光は鋭い。けれどこちらにも、曲げられないものがある。

「厳しさを教えると言って、突き放すのは簡単です。面倒事を追い払い、知らんふりしておけばいいんですから」

ふと、西織の顔を思い出す。

撫でるたびに触れる、真っ赤に染まった髪。いびつな頭。

めったにしわがとれない眉間。

それでもときたま見せる、きょとんとした顔が、年相応で微笑ましい。

「そうやって西織のような子供を我々大人全員が見捨てたら、子供はどうやって成長するんですか」

 

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