「死ぬときは僕らの知らないとこで死んでよ。目の前で死なれたら後味悪いから」

「遺書なんか書かないでね。あんたに使われた紙とペンが無駄になるから」

「もう今死んで。すぐ死んで。あんたの顔、見るのも嫌だわ」

小学生だったら、言葉の意味をよく知らずに言っていただろう。それがどんなに相手を傷つけるかも知らないで、ポイポイと刃物を放って来るように。

しかし高校生なら、言葉の意味も殺傷能力もよくわかっている。刺せばどうなるかもわかっている。その上で、明らかな殺意を持って刃物を突き立ててくる。

どっちが凶悪だなんて知らないが。

どっちもめんどくさいことに変わりはない。

「おまえら、邪魔」

とりあえず、近くの子犬を軽く「どかした」。悲鳴を上げて俺を確認した子犬の顔が、真っ青に染まった。

「に、西織チヒロ!!」

他の子犬どもも、目を見開いて俺を凝視した。俺は眉間に力を込め、舌打ちをする。そうすることで子犬どもが散ればいいと思ったのだが、やつらはいっこうに動かない。

「邪魔だって」

1人を殴り倒すと、声もなく意識を失った。手加減なんて知らない。

他はまだ動けないらしい。体を動かす手間が省けてよかった。食事をあまり積極的に取らない俺は、「何事も省エネ」がモットーだ。

全員に一発ずつ入れて、最後の1人に振りかぶったとき、はて、こいつは散々言葉責めされていたやつじゃなかったかと気づく。

他の子犬どもに迫られて、壁際に追い込まれていたこいつは、俺の通行の邪魔にはなっていなかった。俺は邪魔な障害物をどかせればそれでよかったので、そいつを殴るのはやめた。

さっさと子犬どもの亡骸を跨いでできた道を通る。時間を無駄にした。今ごろ生物室に着いているはずだったのに。

「あ、ありがとうっ!!」

不意に聞こえた背後からの声。振り返ると、例の子犬がわずかに嬉しげな顔で俺を見つめていた。

ありがとう?

先生を手伝って、言われたことはある。でもそれは当たり前だ。人を殴って言われたことはない。それも当たり前。

なのに、今、ありがとう?

首を傾げると、つられたのか子犬も首を傾げていた。

変なの。


 

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