先生は、未だうろたえているようだった。

「風呂、邪魔した?」

「そうじゃなくて…。他の先生方に見つかって、誤解されたら、まずいだろ」

誤解? その言葉に首を傾げる。教師の部屋に来るのは、その人に用があるからで。つまり、誤解もなにも…

「俺、そのつもりで来たんだけど?」

「えぇっ!?」

あからさまに飛び跳ねて、椅子をガタリと鳴らす先生。

何をそんなに驚くのか。

「に、西織、よく考えろ。俺と君は教師と生徒で、いくらこの学園がそういう『色』に染まっているとしても俺は生まれてこの方男との経験がないわけで、西織がお…思ってくれるのは嬉しいけど、俺は答えられないっていうか…!」

言いながら、椅子ごと後ずさる先生。そんなに音を立てたら下の部屋に響くだろ、と考えて、ここは1階だったことを思い出した。

「どうしても、だめか?」

「う、ぇぇと…」

「峰の話なんだけど」

「…………峰?」





今日見たことをかいつまんで先生に話すと先生はいつもの少し悲しげな顔をした。

「そうか…。峰は、そんなことまでしてたのか」

先生の悲しげな顔というのは、眉尻を下げて目を伏せ、口角を上げながら少しだけ下唇を噛む表情。今回はそれに、額を抑える手まで加わった。

最後に見た峰の笑顔が、何故だか先生のその表情に被って見えた。

「どうにかできる?」

いつも的確な助言をくれる先生なら、今回も助けてくれると思った。

「できるよ」

はっきりと答えたのに、どこか煮え切らない様子の先生。

「でも、俺が動いたら、みんなが傷つくことになる。この学園も、峰も、西織も」

先生は常に、「みんなの傷を癒やす方法」を教えてくれた。それが今回は、「みんなが傷つく方法」しかないと言う。峰のような人間を止めるにはどうするのか、それは俺でもわかる。

わかってて、先生に話した。

イコール、そうしてほしい、と頼んだことになるだろう。

そうするしか、術がなかった。

連れを、見捨てて1人にしてしまった。峰と離れても俺には先生がいるけれど、峰には、誰がいるだろう。刑罰から解放された後、峰には帰る場所があるのだろうか。

不意に、頭に何かが乗せられた。

「話してくれて、ありがとう」

先生の手は大きくて暖かくて。

あぁ、この人はまた俺を許してくれるのかと。

「峰のこと、待っててあげようか」

「……うん」

頷くのが精一杯だった。

 

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