「…わかった。俺は止めない。でも金も出さない」

それだけ言って、峰に背を向けた。

俺には、峰を咎める資格がない。俺も峰と同じだから。峰はシミをどうにかしようともがいているだけ。俺は何もしないだけ。

何もできないだけ。

「やっぱり、離れてくんだねー」

いつものように間延びした峰の声。少し振り返ると、峰は俺ではない、どこかあらぬ方を見つめていた。

「またひとりだー」

峰の周りには、たくさんの人間がいた。峰は慕われていた。今、峰が言う「ひとり」が、そういう意味ではないことはわかった。

ひとりでも、峰は笑うんだろう。

あんまり笑って、色を塗りすぎて、厚塗りを重ねた台紙は。

「いつか、腐り落ちるよ。峰」

俺が言った意味なんて、峰はわかるはずがない。口数の少ないことを自覚している俺の言葉なんて、人が聞いたら脈絡もないものだろうから。

けれど峰は意外にも、その真意を読みとっていたようだ。

「じゃあ、どうしようねぇ」

最後に見た峰の顔は、やっぱり笑顔だった。



 

[ 9/26 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -