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「…わかった。俺は止めない。でも金も出さない」
それだけ言って、峰に背を向けた。
俺には、峰を咎める資格がない。俺も峰と同じだから。峰はシミをどうにかしようともがいているだけ。俺は何もしないだけ。
何もできないだけ。
「やっぱり、離れてくんだねー」
いつものように間延びした峰の声。少し振り返ると、峰は俺ではない、どこかあらぬ方を見つめていた。
「またひとりだー」
峰の周りには、たくさんの人間がいた。峰は慕われていた。今、峰が言う「ひとり」が、そういう意味ではないことはわかった。
ひとりでも、峰は笑うんだろう。
あんまり笑って、色を塗りすぎて、厚塗りを重ねた台紙は。
「いつか、腐り落ちるよ。峰」
俺が言った意味なんて、峰はわかるはずがない。口数の少ないことを自覚している俺の言葉なんて、人が聞いたら脈絡もないものだろうから。
けれど峰は意外にも、その真意を読みとっていたようだ。
「じゃあ、どうしようねぇ」
最後に見た峰の顔は、やっぱり笑顔だった。
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