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『太郎さん、僕、ぜひお礼がしたいんですが……』
『待て! 俺を太郎って呼ぶな!』
『え、お名前、違いましたか?』
間違えてたら失礼だ。どうしよう。
『太郎ってなんかダサいだろ。かっこいい俺には似合わない! 俺のことは浦島さんって呼んでくれ。はい練習。せーのっ』
『浦島さん』
『あー惜しい! アクセントが違うんだよ。「う」にアクセントじゃなくて、「ら」にアクセントな。「う」らしま、だとアホっぽいだろ。はいもう一回』
『浦島さん』
『そう! それだよ! おまえやればできるじゃねーか』
そう言って、僕の頭を撫でてくる浦島さん。人間に頭を撫でられたことなんて初めてだ。
あったかいなぁ、浦島さんの手……。
『浦島さん。僕、お礼がしたいんです。ぜひ、僕の住む竜宮城に来てもらえませんか?』
このときの僕の心情は、
わー、会ったばかりの人を家に誘っちゃったー!
だった。
『竜宮城? それってどんなとこ?』
『海の底にあって、とってもきれいなんですよ。美しい乙姫様もいらっしゃいますし、おいしい料理もたくさんあります』
『よし行こう、すぐ行こう!』
こうして僕は、浦島さんを竜宮城に連れ込むことに成功した。
いや、ある意味失敗だな。
乙姫様や綺麗な魚たちを甘く見ていたよ。
浦島さんは人間の男の人なんだから、美しいものが好きなのは当たり前じゃん。
僕は綺麗でもないし、ましてや女の子でもない……。
浦島さんの興味が僕に向かなくても、浦島さんは悪くないよ。
ただ、勝手に僕が寂しがってるだけで。
「浦島さん……」
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