『太郎さん、僕、ぜひお礼がしたいんですが……』

『待て! 俺を太郎って呼ぶな!』

『え、お名前、違いましたか?』

間違えてたら失礼だ。どうしよう。

『太郎ってなんかダサいだろ。かっこいい俺には似合わない! 俺のことは浦島さんって呼んでくれ。はい練習。せーのっ』

『浦島さん』

『あー惜しい! アクセントが違うんだよ。「う」にアクセントじゃなくて、「ら」にアクセントな。「う」らしま、だとアホっぽいだろ。はいもう一回』

『浦島さん』

『そう! それだよ! おまえやればできるじゃねーか』

そう言って、僕の頭を撫でてくる浦島さん。人間に頭を撫でられたことなんて初めてだ。

あったかいなぁ、浦島さんの手……。

『浦島さん。僕、お礼がしたいんです。ぜひ、僕の住む竜宮城に来てもらえませんか?』

このときの僕の心情は、

わー、会ったばかりの人を家に誘っちゃったー!

だった。

『竜宮城? それってどんなとこ?』

『海の底にあって、とってもきれいなんですよ。美しい乙姫様もいらっしゃいますし、おいしい料理もたくさんあります』

『よし行こう、すぐ行こう!』

こうして僕は、浦島さんを竜宮城に連れ込むことに成功した。



いや、ある意味失敗だな。

乙姫様や綺麗な魚たちを甘く見ていたよ。

浦島さんは人間の男の人なんだから、美しいものが好きなのは当たり前じゃん。

僕は綺麗でもないし、ましてや女の子でもない……。

浦島さんの興味が僕に向かなくても、浦島さんは悪くないよ。

ただ、勝手に僕が寂しがってるだけで。



「浦島さん……」


 

[ 10/12 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -