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全部予定通りだ。
婆さんの家に行く赤ずきんを花畑に誘い出したのも、先に婆さんの家に忍び込んで婆さんを殺っちまったのも、訪ねてきた赤ずきんを騙して殺っちまったのも。
ぜーんぶ、計画通り。
「あいつ、早く来ねーかな」
わくわくを抑えきれなくて、婆さんの家の窓から外を覗く。見えるのは森ばかりで、望みのあいつの姿は見えない。
「ちくしょ、まだか。あ、いーこと思いついた」
婆さんの家には、包丁も鍋もある。つまり、料理が出来るわけだ。
俺は料理なんぞしたことはない(いつもは生だから)が、今日はせっかくの記念日なんだ。一腕振るってやろーじゃねーの。
「! 来た!」
あいつだ。窓からあいつの姿が見えた。ハットを目深にかぶり、ブーツを履いて肩に猟銃を下げている。
ガタイのいい体は逞しく、まさに猟師といった出で立ちの。
俺の男。
急いでカーテンを閉め、ベッドの下に隠れる。そのまま息を殺して、そいつが入ってくるのを待った。
しばらくして、ドアをノックする音。
「…婆さん? 赤ずきん?」
ふっ、わざとらしいことを。人間どもは奴を、男らしくて頼りになる腕のいい猟師だと思っているが、実は全く違う。
いや、ある意味その通りだが。
返事をせずにいると、ドアが開く音がした。たぶん今ごろ、部屋が暗いことを不思議に思ってるんだろうな。カーテンを閉めて部屋を暗くしたのは、俺だ。
「…オオカミ…」
奴が俺を呼ぶ。まだだ。まだ返事はしてやらない。
そのうち奴がカーテンを開ける音がして、同時に息を飲む様が気配でわかった。
「こりゃ……」
くくくっ。驚いてんな。
コツコツコツ、と、ブーツの足音。一瞬やべっと思ったが、逃げる必要もないのでそのままじっとしていた。
ドガン、とでかい音をたて、ずらされるベッド。その下から現れる仰向けの俺。ニヤリと精一杯ニヒルに笑い、頭上のそいつを見上げた。
「よぉ。お帰りなさいませ? ダンナサマ」
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