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「ったく! なにが『大きすぎる人は苦手なの』だよっ。好きででかいんじゃねぇっつの!」
缶ビール片手につまみのさきいかを咀嚼するのは俺、日高功(ひだかこう)。つい昨日までバスケ部キャプテンだった。夏休みを前にして、我が校の弱小バスケ部はインターハイ予選を敗退、3年の俺らは無事引退となった。
「まったくだ! 俺だって好きでこんなチャラい格好してるわけじゃねぇ!」
「…いやおまえは好きでやってんだろ」
ビールは苦いからとカクテルを一気飲みする隣のこいつは、蛯名結人(えびなゆいと)。サッカー部でエースだった男。同じく弱小なサッカー部も大会を終えて、3年は引退となったようだ。
俺たちは産まれたときから家が隣同士。つまり幼なじみという奴だ。幼稚園、小学校、中学校とずっと一緒で、打ち合わせたわけではないのに高校まで同じだった俺たちは、自分で言うのもなんだが、仲がいい。
というか波長が合う。
見た目こそ、黒髪短髪でよく真面目扱いされる俺と、金髪アクセじゃら付けでチャラいと言われる結人はまったくの正反対。だが、価値観が似ていた。
2人とも実は勉強が嫌い。親や教師に対するかすかな反抗心もある。けれども芯は熱く、友情や仁義には結構うるさい。互いが喧嘩なんかに巻き込まれたら、速攻助けにいく。
そして2人とも……。
恋愛がヘタクソだった。
「『あたしはこんなに必死なのに結人はすぐ他の女に目移りして!』だよ? ひどくない!? ただちょっとあの子可愛い〜って思っただけなのにさ!」
「…それは目移りしてるんじゃないのか?」
「コウちゃんまで! ひどいっ、泣いてやるっ」
と、本当に泣き出した結人は、こんなナリをして泣き虫だ。こいつが泣いた姿は俺の中ではもはやトレードマークとなっている。
そして結人と波長の合う俺も…。
「泣くなバカ。俺まで泣けてくる…」
泣き虫である。
2人とも、普段は泣き顔なんか絶対見せない。キャプテンだった俺なんかは特に、チームを引っ張るために強く見せようと努力してきた。男は男らしく、が俺のモットーだ。
しかし、それも結人の前では崩れてしまう。幼い頃から家族同然に育ってきた結人には、心を許しているのだろう。
それは結人の方も同じみたいだった。
「ぐずっ…泣いていいよコウちゃん。今夜は飲んで泣き明かそうじゃないか」
「結人…。う、うわぁぁぁんゆいとぉぉ!」
「コウぢゃぁぁぁん」
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