目が覚めれば赤い水の中にいた。
気を失う前に、自分が何をしていたかよくわからない。
ただ、思い出したくない気もする。すっごい恐ろしいことを考えていた気がする。
こんな水の中にいたらきっと風邪をひくだろう、重い体を無理矢理動かし、池のそばの岩に這い上がった。
これからどうしようか、スタッフも全員居ないし、どこにでもついてまわってくるあのバカマネージャーもいない。一人ぼっちがこんなに心細いと思ったことは初めてだ。
ふらふらと歩いていると、恐らく地元の学生だろう、赤いジャージの少女に出会った。
しかし、彼女は自分の顔を見るなり、「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げ、どこかに走り去っていってしまった。
嘘でしょう?あの水の中に入れば、永遠の若さが手に入るって、ねえ、違うの?綺麗って、言ってくれないの?ねえ、ねえ。
人が居ない、誰もいない。世界にたった一人になってしまったようだ。
これじゃ、誰も自分を綺麗だなんて言ってくれない。
ふざけないでよ、じゃあ、なんで私は命を投げ捨てたっていうのよ。





ああ、思い出した。

なんであんな水の中にいたのか。自分は死んだんだ。綺麗になりたいなんて理由で。

死んだところで、誰からの「綺麗だよ」なんて言葉を待っていたっていうの?誰もいないじゃない。

ねえ、答えてよ。わたし、今すぐ貴方に逢いたいの。


「美浜さん」


振り向けば、彼がいた。

いつも眉間にシワを寄せている彼が、笑っている。夢なんじゃないのか。

「探しましたよ」

嫌な夢なら、さっさと覚めてもらいたいけど、きっとこの夢から覚めれば、彼はまた気難しい顔をして、いつもみたいに喧嘩になるのだろう。嫌だ。笑っていてもらいたい。

「どうしたんです?泣きそうな顔をして」
「ねえ、アタシ、綺麗?」
「何言ってるんですか、言われなくてもそうに決まってるじゃないですか。美浜さんは、いつだって綺麗です。やっと言えました」







ふたりぼっちでも、これが幸福であって






もう、なにもいらないです。僕も私も幸せです。