聖なる夜も開け、世界がウィンターマジックから解き放たれる。
枕元の目覚まし時計が鳴り、少しズキズキと痛むこめかみを抑えながら止める。
「さぁて…、今日からまた通常運転だ…」
今日は一段と冷え込むようで、布団の中だというのに冷たくて仕方ない、しかも寒さのせいか布団が一段とゴワゴワする。
布団から起き上がると、外気が全身を突き刺す、まるで裸でいるようだ。
というか、本当に裸だった。なんでだ。たしかに寝る前には服を着ていたはずだぞ。
いや、というかわたしいつ寝ましたっけ?服は?
思い出せるのは確か昨日は八尾さんと最近出来た彼女と私の三人でクリスマスパーティーなんて年甲斐もないことをしていて、そこに宮田さんと淳様と石田くんが乗り込んできてそれからの記憶がない。ああ、そうだ、石田くんに無理矢理お酒を飲まされたんだ。一升瓶で。
つまり、自分は酔っていた、そこには彼女がいる、そんな中、寄った人間がやることなんて
ひとつしかない。
「どどどど、どうしよう!!!仮にも人に神の教えを説く者がアルコールに飲まれて彼女に不浄なものを飲ませただなんてどんなブラックジョークですか!!誰ひとり笑ってませんよ!!羽生蛇村にはまだちょっと早いですよ!!5年後くらいには流行りそうだけど!」
とりあえず、そう考えただけで少し生臭さを感じるシーツを敷布団から強引にはがし、洗濯機のある脱衣所まで走る。一人暮らしだ、人が居るはずもない。
朝一番の激しい運動が堪え、肩で息をしながら脱衣所の扉を開ける。
そこには既に稼働している洗濯機が。終わった。すべて終わった。さっきの叫びもきっと聞かれていたに違いない。もしかすると、布団の中で裸で腕枕をする自分と腕枕をされる彼女の姿を見られたのかもしれない。最後くらい華々しく散らせてもらいたい。どうやって死のう、むしゃくしゃしてカゴの中にシーツを投げ入れた。
「ああ、慶ちゃん」
「…なっ!?」
「先にお風呂借りちゃったけど、よかったよね?ついでに服もお洗濯しておいたけど…」
「あ、いや、ど、どうも」
「もしかして、頭とか痛かったりする?大丈夫?」
「えっと」
「そうだ、慶ちゃんもお風呂入ったほうがいいよ、体、ベトベトでしょ?」
まさかこのような形で脱☆童貞をしてしまうとは、発狂しなかった自分に拍手をしたい。着替えとタオルをとりにいった彼女の背中を見送り、そう広くもない浴槽にあわてて飛び込んだ。
「…死んでしまいたい」
ぶっちゃけ、先程からこの言葉しか言ってない気がする。あと、水面に顔面を打ち付けるのが楽しい。
「慶ちゃーん、着替えとタオル、ここに置いておくね」
「あ、どうも」
「ふふ、今日の慶ちゃん、なんだか初めて会った時みたい」
「そ、そう?」
「うん、なんていうか、そわそわしてる」
「そりゃ当たり前だろう」と心の中で一人ツッコミを入れる。
初めて出会った時のことを思い出す、お互い一目惚れだった。出会って三日で告白した。今考えてみれば全てがスピーディーだった。そういえば、これも二ヶ月ほど前の話だったはず。我ながらスピーディーだ。下半身の方もスピーディーだったらなんて考えるだけで涙がでそうになる。こんなとき、噂にだけは聞いている実の弟の耐久性が羨ましくなる、って馬鹿、朝からこんなこと考えさせないでください。
「お、落ち着いてるね」
「え?」
「いや、その、昨日の」
「ああ、別に初めてじゃあるまいしー」

処女って、きっと空想上の生き物なんだろうなぁ。狭い浴槽に無理矢理肩まで押し込めてそう呟いた。童貞なんて転がるほど居るっていうのに。

Do not think and get away with murder!!!
(何したって許されると思うなよ!!!)