#原作三日目




全てが終わる。
今起こっていることも、この忌々しい呪いも、全てが無に帰る。
これが終わったら、この村からも、亜矢子からも、何もかもから逃げてやる。
神代の役目だって、もう無くなる、自分は自由だ。
「やったよ、ボクは自由になれたんだ。聞こえているか、オマエが命と引き換えでしか手に入れられなかったものがこんなにも安易に手に入ったぞ」







何故、返事が返ってこないのですか?








全身に、顔を歪める暇さえない程の激痛が走る。
この世界と別れることになるのか、こんな終わりか、自由もない、最悪だ。
朦朧とする意識の中、ふと光が降り注ぎ、その光の一点を遮るように、一つの影。

ああ、やっと逢えた。

「神はボクを見捨ててなんかいなかった。久し振りだ、抱き締めてやろう」
彼女は、動かない。
足に無理矢理力を込め、立ち上がる。
一歩進む度に、身体に激痛が走る。それでもかまいやしない。彼女がいる、全ては救われた。もう何もなくてよい。
あと一歩、あと一歩で彼女に触れられる。
その瞬間、目の前に広がる地面が急に脆く崩れ落ちた。落ちる、嫌だ、助けてくれ。
「オイ、何を黙って見ているんだ、助けろ、早く!!」
不意に落ち行く先を見つめると、そこは赤く変色した水に満たされていた。
その水面には、見知った風貌の人々が力なく、さながら人形の様に浮力を受けて浮かんでいた。
嘘だろ、自分はアイツらとは違うんだぞ、化物なんぞにはなるものか。
「頼む、助けろ、オイ、聞いているのか!」
「あのとき、助けてくれなかったじゃない」
「ふざけるな!ボクはお前を助けたじゃないか」
「助けたかったのはわたしじゃなくて、自分だったんじゃないの?」
「なにを」
「バレバレなの、自分に陶酔してるだけって。それじゃ、助けられるものも助けられないよ」
「オマエ、誰にそんな口を聞いていると思っているんだ、ボクはいずれ羽生蛇で一番の権力者になるんだぞ」
「それはその村の中だけでの話でしょう?そこから出れば、貴方は只のちっぽけな人間よ、プライドだけの、誰一人守れない、そんな人間」
「うるさい、うるさい」
「死んでみたらわかるんじゃないのかしら、自分がどれだけ救いようのない人間かって」
「死んでからじゃ遅いんだ。早く助けてくれ」
「だから、嫌だって言ってるじゃない」
「じゃあどうすれば助けてくれるんだ」
「そうね」


にでもなれば、でもわれるんじゃないのかしら?


彼女が二度目の別れの言葉を告げると、視界は赤く染まった。