「今日はどうなさったんですか」
相変わらず無愛想な医者だ。看護婦に煎れてもらった日本茶をすする。
「近頃、眠れないんだ。睡眠薬」
「へぇ、それはまた災難で、でも、うちみたいな小さな医療機関にはそんな大層なものありませんよ、取り寄せるとしたら、あと一週間ほどかかりますが」
どこまでもやる気のない男だ。本当に医者なのか、コイツ。
「じゃあそれでいい」
「それにしても、災難ですね」
「は?」
「ホラ、ふもとの高校の女子生徒の話、何しろ自殺だそうで」
「…」
「たしか、クラスメイトでしたよね?」
「なにが言いたい」
「いえ、ただお気の毒だと。しかし、あなたが気に病むことではないはずだ、なんせ、他人なんですから」
「…隣の席で、よくノートを借りていた、それだけだ。もう帰るぞ」
「お気を付けて」
まるで、なんでも知っているかのような口ぶりがいつも気に障る。
「それと」
「なんだ」
「初恋がなんのためにあるかご存知ですか?」
「はあ?」
この仏頂面で恋愛について語られるだなんて、まったく気味が悪い。
「初恋とは、恋の苦悩を知るためだけにあるんです、よって、その恋は一生実ることがないものなんです」
無性に泣きたくなって、置いてあった花瓶を医者に投げつけてやった。






その日も、やはり眠れず、深夜に目が覚めた。
嫌なものだ、自分は暗闇が苦手だ。
目を閉じると、瞼の裏に、脳の裏に、彼女の仮面のような笑顔が貼り付いてとれないのだ。
「やめろよ、もうやめてくれよ、ボクは助けてやろうとしたじゃないか。オマエが断っただけじゃないか、ボクは悪くないだろう、ボクは感謝される存在だろう、消えろ、消えてくれよ」
また、虚無感だらけの朝が来る、そして、恐怖に怯える夜が来る。



きっと、いつまでも、彼女に囚われたままなのだろう。




「どうしたら、救えたって言うんだよ、何が正解だったんだよ」



なにより、



「それで、幸せだったのかよ」



朝≒夜、つまり、どこにいたって絶望ってこと。

(あなたのそばにいられて、幸せでしたって言うんだろう)








20111129/Happy Birthday dear J.Kajiro