別れの言葉は山ほど存在する。
「じゃあね」とか、「ばいばい」とか、
しかし、年を取るにつれて、ひとつだけ、「さようなら」とだけは言いたくない、と思えるようになった。


「で、これはバイバイ?それともサヨナラ?」
地面に落ちた白い布切れを拾い上げ、ズボンのポケットにしまい込んだ。
「おい、呼んでるんだ、返事くらいしないか」
大通りからは少し外れた路地裏は、息を潜めても音の一つしないような、そんな異様な静けさに包まれている。
が、しかし今日は違う。どうやら事件があったらしく、先程からサイレンなどが鳴り響いて、ここまで音が届いていた。
うるさい、と耳を塞ぎたくなる半分、ただ、それが幸いだと思えた。
「なぁ、ホントは息してるんだろ?からかってんだろ?楽しいか?」
言葉を発することをやめた人体は、秋風で冷たくなったアスファルトの上で動くことなく横たわっている。
「まったく、最後まで加虐的なことばっかするよね、だからいつまでたっても嫁さんがもらえないんだって」
もちろん、返事はない。
「・・・何か言えよ」何度も
「否定してみせろよ」何度でも
「奇跡のひとつくらい、起こしてみせろよ」
口を開くたびに涙が溢れた。拭われることのないそれは、ぽたぽたと地面に落ち、小さなシミを作った。
「さよならなんて、言わせないでよ、大っきらいなことばなんだから」
告げても、告げなくても、
認めても、認めなくても、
そこには確かな空白しかないのだ。
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