「鏡の前に立ってくれ」なんて言われて、私の頭ははてなマークだらけだ。
「み、みやこさま?えっとそれは」
「いいから」
少女が細い腕で私の腕をグイグイと引っ張る。もちろんよろめくことはない。私は大人だ。
「鏡の前、ですね?」
「そうだ」
なんのことだか、正直わからないが、言われたとおり全身鏡の前に立つ。
写っているのは普段と何ら変わらない冴えない自分だ。我ながらいつ見てもどこにでも居そうな面をしている。
「で、なんでしょう」
「あーっ、動くな!そのまま!そのまま!」
なんのことだかよくわからないが、なんで僕は鏡の前に立っているのだろうか。わけがわからないよ。
「やっぱり」
「はい?」
「やっぱり、お前は優しい顔をしているな」
「なんのことでしょう」
「声と同じ、優しい顔だ」
美耶子さまは時々おかしなことを言う。私のような男のどこから、優しさを感じ取れるというのでしょうか。
「そうですか、ありがとうございます」
「私は目が見えないから、一度だけでもいいから、お前の顔を見てみたかったんだ」
「ほかの使用人は、鏡が見たいっていうと「ケガをするから、近づくな」って言うんだ」
「やっぱりお前は優しいな」
「美耶子さまも、お優しいです。私のような男に、このような慈悲深い言葉を…」
「なぁ」
「なんでしょう」
「何時か、本当にこの村から一緒に逃げてくれる?」
「ええ」
約束します。きっと、いつか。
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