時々、ぼんやりと記憶をめぐる旅をしてみる。
いつもは三上さんの笑い顔が浮かぶくせに、今日はなぜか遠ざかった彼の泣き顔が浮かんだ。
あれは忘れもしない、夏の暑い日の話だ、村の教会の裏をフラフラと歩いていたとき、ふとすすり泣く音を耳にした。
村に住む小さな女の子のものだろう、このへんは道が入り組んでいて、時々自分でもどこを歩いているかわからなくなる時がある。
「大丈夫?」と一言呟いて声のするほうへ近付き、後悔した。小さな女の子の声なんかじゃない、完全に男の声だ。
嗚咽に混じり、時々恐怖と求道女の名前をぶつぶつと呟くそれには見覚えがあった。
この村特有の宗教、それの拠点となる教会の主だ。
数年前、彼の父親が自ら命を絶ってからというもの、なんとも頼りなさげな息子がすべてを取り仕切っている。
ううん、どうもやりづらい、しかし声をかけてしまって辺りをキョロキョロ気にしてるし、このまま放置は可哀想だ。
「ああ、求道師様でしたか。てっきり、村の子供かと」
「君は」
「なあに、村の人間ですよ」
「そうじゃなくて、見てしまいましたか」
「なにをです」
「弱くて、頼りない私の姿を」
「いやぁ、求道師様だって一応は人間ですもの、泣くことだってあるでしょうに」
「…不安なんです」
「何がです」
「私も、あの人と同じ結末を迎えてしまわないかと、あんな、惨めな死に方をするのではないか、不安なんです」
自分の父親を惨め呼ばわりとは、とんだ息子だ。
「みんな、大丈夫だとか、貴方なら出来るだとか…。私は不安なんです。あの人と同じにはなりたくない」
「じゃあ、何が満足なんですか、貴方がダメな人間だと肯定すれば、貴方は満足なんですか」
「それは」
「でしょう、答えは分かっていても、それを言葉にしてしまうば、それも間違っていると錯覚する。結局、どうされたいかなんて曖昧な物なんです。私だってそう、貴方だってそう」
「君は」
「貴方も人間でしょ、なら大丈夫。神様は平等に祝福してくださるよ。だから笑って、」
求道師様、といいかけると、夏だというのに金属かのように冷たい手が、私の手を覆った。
「平等であるなら、そのような堅苦しい呼び方は無しにしましょう」

嗚呼、嫌だ、微笑みかけないで、祝福されたくないの、私は、私は―


人は夢に踊らされている、眠りについても、覚めても。
カーテンを通した朝日が部屋を緑に染める。
夏も過ぎ、少し肌寒くなってきた頃だというのに、汗で肌に衣服が貼り付く、いい加減、存在もしない人間に怯える日々には疲れた。しかし、消えないのだ。どうしたって、脳裏にこびりついたそれが、いつまでもいつまでも。
朝が来れば、かならず夜が来て、また夢を見て。それを無限に繰り返す。おかしい、狂っている、いや、何がだ、分からない。



「おはよう」


それでも、受け入れざるを得ない。

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