「こんにちは壱継さん」
「よぉ壱継」
三上さんはわかる。しかし、後ろにいる吉岡は理解し難い。
「お邪魔してよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、三上さんいらっしゃい。どうぞどうぞ」
「おい俺はよ」
「てか、何しにきたんです」
「なに、三上さんに着いてきたらここに着いただけだ」
ストーカーか何かだったようだ、こわいこわい。
「おー、三上さんいらっしゃ…誰だ、ソイツ」
「ああ、阿部くん、お邪魔しています」
ほんわかムード全開の三上さんを挟んだ二人はなぜか互いにメンチを切り合っている。おいやめろここは私の家だ、やめろ、やめてくれ、近所で「ヤクザの集う小さなおうち」みたいな名称をつけられたらどうしてくれるつもりだ。
「あ、えっと、こちら同じ職場…っていっても部署が違うけど、のヨシノリさん」
「ちっす」
「で、この人はワケあって一緒に暮らしてる阿部倉司くん」
「どうも」
紹介をしてやっても、にらみ合っている。何が不満だと言うのだ。
「オイ、おまえいくつだ」
「は?俺?24」
「ハッ、俺27」
ガキかお前らと言ってやりたいが三上さんの前なので少しでもおしとやかにしていたい。
「ねえ、壱継さん」
「はいはい、あ、部屋上がります?と、いうか上がってもらわないと門前払いみたいですよね」
「そうじゃなくて」
「?」
「僕も、年齢公開するべきかな」
「ああ、しなくて大丈夫ですよ」



「で、阿部とやら、お前は壱継のなんなんだ?恋人か?」
先程から吉岡は阿部ちゃんに絡みっぱなしだ。よほど気に入らないのだろう。
「アンタこそ、三上さんのなんなんだよ」
そこかい。
「俺はぁ…、あれだよ、三上さんの秘書だよ。ねぇ、三上さん」
「あ、いや、その」
本棚の雑誌を漁っていた三上さんが肩を震わせる。苦手なんだろうなぁ。
「おい、アンタめちゃくちゃビビられてんじゃねーか」
阿部君がニヤニヤ笑う。
「お、お前こそ、壱継と一緒にいて、疾しいこと考えてんじゃねーだろうな」
「こ、こら、吉岡さん」
「アンタこそ、三上さんのストーカーなんかしてなにするつもりだ!」
そっちか。
「ストッ、誰がストーカーだ!第一に、俺はそういう趣味は持ち合わせない男なんだよ、フェミニストなんだよ」
「はーいお茶ですよーっと」
少しカップを傾け中身を吉岡の膝の上にぶちまける。
「あっち!おい壱継オマエ…」
「ここ、私の家なんであんま騒がないでくれます?」
甲斐甲斐しくポケットからハンカチを取り出しそれを吉岡に手渡す三上さんの女子力には感動する。
「一度と言わず二度までも…!この俺に恥をかかせるとは…!」
「は?」
「忘れもしない、あれは二ヶ月前の話だ。俺はお前に殴られたんだよ!まぁ?俺はフェミニストだから?殴り返すようなこたぁしませんでしたが?」
自分の記憶を手繰る。覚えがない。
「あぁ!その顔は覚えてやがらねぇな!」
「いえ、暴力は苦手なものでして」
「茶をかけておいてそれかぁ!ったく、クリーニング出したばっかだったのによ…。おい、阿部、ズボン貸せ」
「サイズ合うのかよ」
「…いいから貸せ!!シミ付きズボンなんてカッコがつかないだろ!家に帰りゃ替えがあんだ!じゃなきゃオメーのダッセェ服なんざ借りねぇよ!」
「ンだと!?じゃあパンツだ!パン一で帰れよ!いいじゃねえか、統一されてんぞ!」
「おっ、落ち着いてください二人とも!ズボンなら私のを貸しますから!」
各々が思うように怒鳴り散らすカオス空間に頭が痛い。
ただ、あの世界で生きていたのなら、一生出会うことのない騒がしさは、少しくすぐったい。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -