久しぶりに仕事場に行くと、なんら変わらない職場の雰囲気に少し安心した。
が、しかし家に帰ればあの置き場に困るようなちょっと体格のいい男がソファに寝そべってテレビを見ている。職場に永住したくなってきた。
「ただいまかえりましたよーっと」
「おう、おかえり!洗濯物取り込んで畳んで置いたからな!」
「はいはいそれはどうもご苦労さまぁ」
なんだかんだ言って彼の安心感には幾度か救われている。柳子さんもいい人を見つけたものだ。
「あと、外で張り紙を見つけたんだけど、あの写真、どっからどう見てもあの犬なんだよなぁ」
「え?」
「コレ」一枚の紙を手渡されると、なんとも勇敢な顔つきをしたシェパードの写真が印刷されていた。どう見てもツカサです、ほんとうにありがとうございました。
「迷子犬ってことは、私たちと同じ原理か…って」
「どうした」
「つまり、それをたどればこの世界の三上さんに会えるんじゃないの…?」
「おお!…で、どうするんだよ。仮に会えたとしても、こっちの世界でのアンタは三上さんの愛人だったのかって話だろ?」
「…で、でもとにかくあってみたいじゃない?それに、ツカサだって、飼い主のもとに戻りたいだろうし」
俺は知らないぞ、とでもいいたそうな表情を浮かべ、テレビに視線を戻した彼に「今晩はカレーですよー」と伝えると犬のようにテーブルの椅子に着席した。




翌日、電話で指定された場所で待ち合わせをしていると、おなじみのあのファッションの彼が親しげに手を振った。
「こんにちは、えっと、三上さん」
「はい、三上です。この度はありがとうございました」
この様子から見ると、どういうわけかこの世界の三上さんは目が見えているらしい。
しかし、ファッションセンスはあの世界の彼そのものだった。上等な生地で出来たジャケットに同色のパンツ、インナーは無地の白いTシャツという完全にファッションに興味がありませんよーといった感じだ。
「どうかしました?」
「あの、三上さんって、もしかして小説とか書かれてたり…」
一瞬ツカサを撫でる手を止まった。
「なんでそれを?」
「い、いやぁ、そんな気がして。是非読ませていただきたいなぁ」
手を合わせて笑うと、三上さんは頬を赤く染めて、私の手を取る。
「是非!今度文芸誌に投稿しようとしているものがあるんです」
子供みたいな笑顔を浮かべる彼は新鮮だった。
「じゃあ、今度またお会いしましょう」




「で、また会う約束を」
「うん」
「もしかしてそれ恋人になるフラグとかいうヤツなんじゃねーの?」
「そうかも、そうなったらどうする?肩身の狭い思いで一緒に住むことになるよ?」
「ケッ、そこはもう割り切ってるっつーの」
「ふぅん、って、ちょっと、それ私が買ってきたヤツじゃない?」
「なにがだよ」
「なにって、そのアンタが飲んでるヤツ!それ私の!」
「残念でした、もう遅い」
なにかあったらちょっとお高い缶チューハイ、は実は自分の中でちょっとしたブームでとりあえず新しくて大変そうな生活が始まるので頑張りましょうね自分ー、の意を込めて昨日買ってきたモノを、目の前でまるで安酒を流し込むようにグイグイ飲まれている、許せない、これは閉め出しを食らわせてもおかしくないレベルに腹が立っている。
「せっかく買ってきたのにー…」
「今度から名前でも書いておけよ」
安い酒を飲んでもろくなことがなさそうな気がしたので今日はさっさと風呂に入り、夕食を食べて眠ることにした。
「あれ?アベちゃんは何か食べたの?」
「ああ、食べてねーや」
「じゃあ今つくるから待ってて」



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