世界は誰一人として自分たちを祝福してくれなかった。
と、言えば一見、住居も職も見つかった私はとてもバチあたりなことを言っているようにしか見えない。しかし確実に神様には見放されたに違いない。


なぜそのような結論に至ったか、思い出したくもないが、特別に語ってやろう、そう、あれは三日ほど前の出来事。

私の愛人(なのか?)である三上脩という男を追って夜見島という今や人一人寄り付かない無人島行きの船に乗り込んだのがすべての始まりだ。
その日、無人島へ向かう筈の船は何故か繁盛していた。それが悪夢の始まりだった。
船のなかで一度は再開できたものの、なんと船が荒波に呑まれ気が付けば夜見島にいた。
そのあとフラフラ島をさ迷ってたら一人の男に遭遇して、なぜかよくわからないが三上さんは死んでるとか言われるし、自衛隊のにいちゃんに出会うし、変な化け物出てくるし、爆発起こるし、挙句また荒波に呑まれて気づいたら夜明けの近い海辺にいて、ほかの人探さなきゃーと思って探したらツカサの隣で例の男が泣きべそかいてるし、状況が理解できないからとりあえず島をうろついてたら普通の島民さんいっぱいでみんな優しいし。


とにかく、訳が分からない。とりあえず家に帰ってみようと思い、男に話しかけると「俺多分家なくなってる」などとみょうちきりんなことを言い出す始末だ。
ふと、男の顔を見る、見覚えのある顔だ。たしか指名手配されていたアベという無職の男だ。まったく、この男もかわいそうなものだ。冤罪だと彼は主張していた。マスコミも残酷だなぁ。
「なんでまた家がなくなってるなんて」と言いかけたところで、ずいと数日前の夕刊を手渡された。
飲食店勤務の男が殺害され、同棲相手の女を指名手配中、というニュースで見た内容と正反対のものだった。
「なに、これ」
「ここは元いた世界じゃないってことだ、もうあの化け物も、柳子だっていないんだ」
「は?」そんな話はSFでしかないんじゃないのか。
「だからぁ、ここは俺たちが元いた世界じゃないんだよ!ホラ、事件があったマンション、そっくりそのままだろ?つまり俺以外の奴が住んでるってこと!」
「はぁ…じゃあ戸籍はどこに?」
「しらね」
「…」
とりあえずツカサも連れて無理矢理本州に帰り、自分の住むマンションの一室に行ってみたら表札がそのまま自分のもののままだった。「つまり、今いる世界の自分と元の世界の自分が入れ替わったってこと?」
「じゃね?」
「パラレルのことはようわからない…」
その一言で全てを丸め込み、とりあえず阿部くん(と呼ぶことにした)をどうするか考えてたら勝手に部屋に上がり込み始めた。
「ちょっと何してるの」
「住むとこないから世話になる」
「待って」たとえ消えたとしても愛している相手がいる人間が異性の部屋に転がり込むなんて言語道断だろう。それに、私だって三上さんの事が忘れられずにいる。
じゃあなんだ、互いに傷を舐め合って生きて行けとでも言うのか、ふざけるな、虚しいだけだろう。
「じゃあどうしろっていうんだよ、アンタには帰る場所があるかもしれない、覚えてる奴だっているかもしれないけどな、俺はアンタ…と、その犬以外に俺を知ってる奴が居ないんだよ、頼むよ」
「…なぁに?それって、慰めてほしいの?」
「違えよ」
「寂しいんでしょ?私だって寂しいわよ」
「なんでだよ、帰る場所もあるくせして」
「大切な人がね、死んじゃったのよ」
「は?」
「あれ、言ってなかったっけ?わたし、三上脩の愛人ですが」
「ハァ!?」
その後、話せば分かり合えるという在り来りな答えを導き出し、奇妙な同居生活が始まったのである。



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