その日は、なんとも暑い夏の日だった。
ここから遠く離れた都市にある高校に進学した幼馴染が夏休みを利用して帰ってくると聞いて、朝から上機嫌だった。
でも、彼女は自分の機嫌とは裏腹に、少し暗い顔をしていた。
「私ね、」
話がしたい、と言われて、とりあえずと自販機で缶の紅茶を二本買い、ベンチに座り込んだ。
「京都に帰ってきたいの」
四人でいた時とは変わって、その声は暗く沈んでいた。
「ほら、ずっと4人でいたからさ、一人になったら、すごい寂しくて・・・」
でも、遠いから簡単には帰って来れないし、とうつむく彼女になんと声を掛けていいか分からず、ただ黙って話を聞いていた。
「だけどさ、やっぱり、自分で決めたことだし、ここで曲げたら、親に顔向けなんてできないでしょ?だから」
「自由にすればええ」と言いたいところだが、いかんせん彼女はまっすぐな人間で、自分の一言で、彼女が塞ぎ込んでしまうかもしれないと思い、口を噤んだ。
「・・・ダメだよね、こんなこと言ったら」
そろそろ、実家に帰らなきゃ。と苦笑いを浮かべ、ベンチから立ち上がる彼女の腕をつかんだ。
「・・・どうしたの、竜ちゃん」
「自由にすればええやろ、お前の人生や」
「それは強い人の言うことよ、私みたいな人間は、一生口になんてできないの」
「じゃあ」
「私と竜ちゃんは違うのくらい、わかるでしょう?親にだって無理言って通い始めた高校だし、そんなさみしいからなんて、そんな理由で帰ってこられる訳がないの」
顔は見えない、けれど彼女の声からして、きっと泣いているのだろう。
「人って、自由に生きるには、それに見合う責任を背負わなくちゃ生きてはいけないの。好きなように生きるって、案外大変なのよ?」
それに、と付け加える彼女の腕を引き、肩をつかんだ。
「なら、その責任」
彼女がなぜ涙を流しているのかがわからなかった。
彼女がなぜこんなにも愛おしそうに微笑んでいるかがわからなかった。
「半分、背負わせてくれ」
ただ、それ以上は何も言わず、涙で濡れた彼女の唇に自分のそれを合わせて、つかんでいた腕を離した。
この日から、きっと何もかもが音を立てて崩れたに違いない。
これが、自分の自由の責任なのだろう。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -