決意の日まであと一日。
あの日から彼女とは一度も顔を合わせていない。
会いたくてたまらないのは確かだ、しかし、顔を合わせてしまえば決心が鈍ってしまう気がして、顔を合わせるのが怖いのだ。
しかし、日本を旅立つ前に、彼女に直接会って話したい。
そんなジレンマを抱えながら一冊の雑誌を読んでいた。
キラキラと光を反射するシルバーのアクセサリーは、紙を媒体としても、その輝きがよくわかる。
しかし、なぜこんなに高いのか。金属片だぞ、金属片。
ううむ、と首をひねると、ヒソヒソした話し声が耳に入った。
「教皇代理の読んでいるあの雑誌は噂の晴れ舞台が近づく若い男女二人が肩を寄せ合い眺める雑誌、通称ぜくしぃでは・・・」
「まさか教皇代理、とうとう運命の相手を」
「やっぱり運命の相手って松本せ・・・」
「こっ香焼お前にはまだ早い!!」
「結婚かぁ・・・、いつか私も・・・なんて・・・」
・・・自分のプライバシーというものをどこに置き忘れてきたものか。考えてみれば自分も相当の個人のプライバシー(というか個人情報)を垂れ流してきた(主に五和など)。
ため息をついて雑誌を閉じると、よくあるアメリカのコメディー番組のようなあからさまな嘆きの声が聞こえてきた。俺にどうしろというんだ。
よく考えてみれば、こんな金属片一つで女の人生を縛り付けるということ自体が間違った風習なのだ、そうに違いない、俺はもう騙されない!そう、モノで釣って作り上げた関係のどこに清純なんて言葉があるんだ!つまりそんな風習はそげぶだ、そげぶってなんだ。
勝手に自己完結させ、雑誌を放り投げると、後頭部を思い切り殴られた。
この容赦のない暴力は恐らく、対馬のものだろう。するべき仕事を終えてからの時間の無駄遣いだぞ。そう言い返してやろうと振り向いた。
「いい加減にしなさいよ」
そらきた、すかさず「するべき仕事をした後の時間の無駄遣いだ!」と反論をした。
「アンタねぇ」
どうやら違ったようだ。じゃあ自分はなんという理不尽な理由で叩かれたのか。
「それ」
「どれ」
「その雑誌!」
「ああ」先ほど投げ捨てた雑誌を自分の近くに手繰り寄せる。「読みたいのか。しかし、まだお前さんには必要がないと」
「違うわよ!」ぴしゃりとひっぱたくかのような物言いだ。
「あの子に、なんか買ってあげるんじゃないの?」
「いや、よく考えたら別にいいかなー、みたいな」
今度は、比喩とかそういったものでなく本気で頬をひっぱたかれた。
「いでっ」
「一番痛いのはあの子の心だって分からないワケ?何時まで待たされるか分からない中、何の保険も無しにこんな遠いところに置き去りなんて」
それはおかしな話ではないか、とじんじんと痛む頬をさすった。
彼女を待たせてしまうのは確かだ。
しかし、その時間も、寂しさだって対等に自分にも降り注ぐのではないのか。
つまり、全てを提案した自分でさえも寂しくて仕方がないのだ。
こんなに虚しくなるのなら、いっそ何も言わなければよかった来さえするが、それで解決する話ではない。
「で、どうするつもりなの?」
覚悟は出来た、すっと顔を上げ、対馬の目を真っ直ぐと見据える、そしてここで一言―
「いや…まさかそんな…重いっていうか…」
其処に存在するのは理不尽な暴力にあらず、有るのはただ冷ややかな視線だけであった。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -