かわいいふりして
あのこ
わりとやるもんだね と




:ところがどっこい、でもbutしかし。:





彼女と最初に会ったのは、虎徹さんと露店の並ぶ大通りを歩いていたときだった。虎徹さんはよくその露店のうちのとある花屋で花を買っていくようで、二人は天気の話から最近のワイルドタイガーの活躍の話などで盛り上がっており、売り子をしていた彼女と虎徹さんはすっかりなじみの様であった。鈴みたいな音でころころとわらう声、くるくると変わる表情、わらう度に一つに結んだ髪がゆらゆら動く。その時はまだ、虎徹さんのお気に入りの可愛らしい人なのだろうと他人事のように思っていた。

二回目に会ったのは、買い物帰りに一人でその大通りを歩いていたとき。夕刻、店を閉める作業の途中だった彼女を遠目に認識して、ああ、もう閉店か、なんて考えてせっせと働く彼女を眺めているとふと顔を上げた彼女と視線がぶつかった。

「あ、バーナビーさん!」

僕を認識した彼女は、まるで花が一瞬で咲くように瞬時に顔を綻ばせて、僕の名前を呼んだ。この間と同じく、一つに結んだ髪が顔を上げると同時に揺れる。僕は無性に恥ずかしいような照れくさいような気分になってしまい、適当な返事しかしなかったことを今となっては猛省している。

三回目に会ったのは、雨の降っていた朝。早朝から開いているお店の屋根から少しはずれたところで、彼女は雨に降られることを全く厭わない様子で何故か猫と戯れていた。雨で下着が透けていて思わず急ぎ足で彼女の元に歩み寄り傘を差し出した。

「あ、バーナビーさん」

僕の姿を確認すると、彼女は、にへら、とわらった。このこ、よくうちの店に顔出すんですよ。彼女は猫と戯れながら聞いてもいないことを喋った。彼女の頬を伝う雨によくわからない後ろめたさを感じ、何故かまともに見ることができなかった。

それからしばらく毎朝、仕事が早く終われば夕方も、その通りを歩くことが多くなった。どうやら彼女は毎週火曜と隔週で木曜が休みのようだ。毎日店の前を通れば分かる。連日ここを通っていくうちにいつしか僕も彼女と天気の話をしたり自分の活躍の話、パートナーの虎徹さんの話をするようになった。彼女は相変わらずころころと笑いくるくると表情を変えて忙しい。

そんな彼女を、ここ最近ざっと9日間ほど見ていない。

昼休みに通ってみても居ない。朝時間をずらしても居ない。閉店間際に通っても居ない。どうしたのだろうか。病気にでもなったのか。ひょっとしてやめた?もしかして僕が毎日通うから鬱陶しく…いやまさかそんな。だって彼女は嫌がっているわけでもなかったし…嗚呼なんてことだ、先ほどから悪いことしか思いつかない。彼女を九日間見ていない今日は、朝から雨が降っていて店にはあの猫も来ており彼女を待っていた。店の屋根の下で雨宿りする猫の隣に立って僕も雨宿りをする。

「…どこに行ったんでしょう」

猫に聞いてしまった。勿論返事なんかなくて横目でちらりと猫を見たら、にゃあ、とそいつは短く鳴いた。

彼女を見なくなって10日目の朝。どんよりとした僕の気持ちとは裏腹に、朝から腹立たしいくらい晴れ渡っている。雲一つ見当たらない。連日期待しては彼女が不在で気分が塞ぐ。今日も居ないのだろうか。でも今日は天気もいいし居る気がする、と希望的観点でものを言うなんてなんとも僕らしくない思考だ。ああ馬鹿馬鹿しいな、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。どうして僕がこんなこと考えなきゃ

「バーナビーさああん!!!お久しぶりでーす!!」

僕の進行方向から聞こえてきた、あの少し高い声。反射的に、というか勢いよく顔を上げると彼女が居た。両手をぶんぶんと振り一つ結びの髪を揺らし僕の名前を呼んでいる。僕は物凄くほっとしてしまい思わず僕の顔も綻んだ。顔の筋肉がほぐれる。随分長いこと、眉間に皺が寄っていた気がする。そういえば昨日虎徹さんにも、バニーちゃん最近顔が怖い、なんて言われたことを思い出した。

「バーナビーさん、おはようございます。お元気でしたか?」

彼女は10日前と何ら変わりなくころころとした声で表情をくるくると変えて僕に話しかける。

「ええ、変わりなくやってますよ。貴女こそお変わりありませんでしたか。しばらくご不在だったみたいですが」

「ちょっと実家の手伝いに行ってまして…」

えへへ、と困ったようにわらう彼女。僕の10日間は杞憂で終わってしまった。

「少し、心配したんですよ。あの猫も貴女を待ってました」

ずっと心配してきたのだからこのくらい言っても罰は当たらないだろうと言った言葉に対し、すみません、と少ししゅんとした彼女を見ると罪悪感に苛まれる。小動物を虐めている気分になる。すみません言ってみただけですもういいです、と言おうとした。

「もしかしてバーナビーさん、毎日わたしに会いに来てくれてました?」

「なっ」

俯き加減だった彼女は上目づかいで僕を見ている。僕は意図せず良い返答が出来ない。
別に毎日会いに行っていたわけじゃない、毎朝の通勤ルートなんだ、そのついでにいるかどうか店をのぞいていただけなんだ、だから別に会いに来ていたわけでは

「バーナビーさん、もしかしなくてもわたしのこと」

ほらやっぱり違う勘違いだそれは違うんだ僕はそういう意味で言ってないんだ違うんだ。

「ち、違いますよ!何を言ってるんですか僕が貴女を好きとかどうとかそんなことより僕は今日急いでいるので仕事に行きますから」

「そうでしたか。わたしは毎日バーナビーさんにお会いしたいしゆっくりお話したいんですけど残念です。あ、ちなみにわたし、別に好きがどうとか言ってないですよ?」

「あ」

思わず、絶句した。僕としたことが。一世一代の失敗だ。僕としたことが。

「バーナビーさん」

「ああああああ」

しまったなんてことを言ってしまったんだ。なんてことをなんてことを、なんてことを。

「どうせなら、もっと好きになってくださいね」

くすくす、といたずらっぽくわらう彼女。
にこっと微笑まれ両手をぎゅっと握られた僕が能力を発動し全力でその場から逃走するまで、あと、2秒もない。



終。





111031
バニーちゃん誕生日おめでとう!
誕生日だからバニーちゃんストーカーオチは自重しハンサムエスケープオチにしましたてへぺろ。
テーマは最初から一貫してバニーちゃんの童貞力でFA。
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