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20101219/たぬ
しかし、よくアレが“犬”だと一目で判別できたものだと清流は内心思う。感心すらする。
直径30cm程だろうか。
羊毛の様な球体。桜色。
その塊から突き出たプードルの様な尻尾。
両耳と手足は柴犬。
栄えた毛のボリュームでそれらは見えず常に隠れ気味、それぞれの先が辛うじて確認できる。
地面を滑り行く(様に見える)移動姿に初見は我が目を疑うこと必至。
一度だけ……外見からは想像すら上手くつかない身体形状を確認せんと、ちょっとした好奇心から清流は体毛の内部に右手をめり込ませてみた事がある。
胴に触れることはなく見事に手首までが埋まった。
まだまだ進める余地はあったが、もしもそのまま突き抜けたなら精神衛生上良くはないのでそっと引き抜き、それっきりだ。
それだけ豊かな体毛を所持していながら鼻や目、そして何故か眉毛らしきものは取って付けた様に表面にある。埋没していない。
好意的な言い方をすればヌイグルミの様な……いや、ヌイグルミそのものではあるが、あってほしいが、生きている。
しかしそのどれを取ってもとても三次元に存在する生物だとは思えない。恋人(希望)の飼犬でなければ即刻捕獲ししかるべき組織・団体に通報している。
……そう、得体の知れない生物でも恋人(切望)が愛する家族であるならば大切に思い遣る他はない。
将を射んとすればまず馬を……
いや、それは既に切っ掛けに過ぎず、最近では清流自身も客観的に見てどうなのかは兎も角すっかり犬を愛らしい生物として認識してしまっている。
元は普通の“犬”自体からしてあまり好ましくは考えていなかったというのに。
本能に起因する力であるのか、恋人(オネガイシマス)の存在は其れ程にまで容易く清流を変えてしまった。
未だ幼さを残した小柄な身体。
肌は月魄、優しく円みを帯びた容。
すらりと伸びる肢体には微かに少年の香。
美しく梳られた細くしなやかな髪と、
長い睫に縁取られた双眸は高貴な光を湛えた琥珀色。
すっと通った形の良い鼻の上には持主の聡明さと共にあどけなさをも伝える青銀縁の眼鏡が。
可憐に綻んだ口元、淡く色づいた口唇。
時に強い意志を宿す声音は清浄にして高潔。
その笑顔は眩い白金の輝き。
純潔無垢の“大和撫子”。
清流にとっては彼の存在こそが玲瓏、寄す処そのものだった。
……そう。
“彼”である。
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