20101130/たぬ
「つーか無理!! 無理だから!!
天音チャンとはもうゼッテー行かねー!!」
「何故。何でだ。勝てないからか。そうなのか」
「ウハハハ!!
キヨちんダッセーなーオイ!!」
「うっせテメー、
その髪毟り散らすぞコノヤロー!!!」
大人と呼ぶには些か幼さが残る、おそらくは学生であろう派手めな風貌の男たち。
休日とはいえ昼の繁忙期を過ぎ客も疎らな店内が、彼ら三人の来店を機に途端に騒がしくなる。
「さがのきよら、」
再び件の名を口にし、託朗が示す相手を確認すれば。
それは今し方隼太が瞠目した原因と同じ、過日犬を連れていたあの青年当人だった。
だが本日の連れは表情の乏しい者と長髪を無造作に束ねた者、いずれも長身の青年。
少なくとも飼犬の散歩へ向かう、終えた、そんな最中には到底思えない。
犬が同伴していないだろうことを悟り、それと共にそんな上手い偶然が立て続けに訪れる筈もない、とも思い……隼太は落胆すべきなのかその必要はないのか、どうにも複雑な心境に陥る。
しかしそれよりも、何故託朗が男の名を知っているのか。
そちらの疑問の方へも思考を割こうとした矢先――――
「あ? どした??」
それはそうだろう。
今の今まで無遠慮に、凝視と言っても過言ではないレベルの視線を一心不乱に向けていたのだ。
まず長髪の男が託朗の存在に気付く。
それに反応する飼主の男。
三人一様にこちらのテーブルを見遣る。
「ヤッベ、ジャリガキ。つかガン見だし! ウケるー!!」
「や、ウケねーし。意味分かんねーし」
「ああ。『意味分かんねー』だな。苺は最後だ」
今度は三人三様に述べた後、ゴメンね、バカ共で……と続け、近付いてきたのは飼主の男。
「どしたの? オレだったよな??」
視線が向かっていた先のことを言っているらしい。
隼太にとっては鴨葱、千載一遇、最後かもしれないチャンスである。
「…………犬、」
「へっ?」
「公園で。散歩させてた、させてマシタよね。一ヶ月位前、三時頃、誰かといっ」
「はーーーー!!?」
しょに、と続けるつもりだった、
実際に口にも出した筈の少年の声は素っ頓狂な飼主の叫びに掻き消された。
「いやいやいやいや、ソレ絶対ヒト違い!
オレ犬飼ってねーし。つーかオレが犬の散歩とか、ねーから!!」
言いながら、常に気怠そうな半眼の奥が訴えている……
“黙らなくば 斬る”
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この物語はフィクションです
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