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20120605/きぃ


ドアに手を掛け、数秒で体制を整え、先程の動揺は微塵も見せず、慧は優雅に去っていく。

小さく軋んだドア、手元の紙片を交互に見遣り。呆然と隼太は呟いた。

「ご……迷惑おかけします……、」


当日。快晴。風も陽射しも穏やかな、行楽日和。

六芒健康公園、森林遊歩道。湖を囲う様に拡がる、常緑林を縫って小路は続く。点在する広場は、多目的に使われるテーブルや椅子が、何組か設けてある。

それを対岸に見た、畔。奥まっているそこは、人気が無い。

メッセンジャを背に、古びた一眼レフを携え、何処か鬼気迫る面持ちの隼太は、立ち竦んでいる。

空いた左手を、指を絡めて握り込み、生地の柔らかなジャケットと、スエットにスニーカーを身に着けた託郎が並ぶ。

1メートル程の空間を挟んで、対する清流。シャーベットオレンジのカーディガンと暗色のシャツが落ち着いて、スキニージーンズにメンズブーツの姿は、正に大人、という態だ。

その足元。独特なフォルムにつぶらな瞳。豊かな桜色の並みに、見失いそうになる小さな手足を、行儀良く畳んだ、犬。

「……オハヨ、」

棒立ちの子供二人に、苦虫を噛み潰した心境で、努めて爽やかに挨拶する。

せめて慧ちゃん一緒ならさぁ、いやいや、判ってっけどなぁ!

心中で泣き叫ぶ清流を余所に、二人は静かに見詰めている。足元で首を傾げる様に、鎮座している犬を。

「犬……。」

「犬だ……。」

口々に呟き。しかし動こうとはせず。
交差した視線、期待に染まる眼差しは、そろって清流を見上げた。

ぅわー何このガキ共、すんげ見てくるんですけど!痛い視線痛い!何かもう嫌でも触りたさとか伝わるし!俺に動けってかコノヤロウ!

脳裏に浮かぶ、綺麗な笑顔の慧。麗しげな唇が綻び、責任取って下さいね、有無を言わせない声音が蘇る。

「っ……、ぇーと。遊んでみる?」

身震い一つ。名誉挽回、と己を奮い立たせ、呼び掛ける。
迷わず頷く託郎を見留め、清流は腰を落として、ふんだんな毛並みからリードを外す。
顔を上げれば、すぐ側に託郎が立っていた。

存在感の無さに、清流は思わず後ずさる。びびった……、息を吐き、何気なく視線をずらせば、先程の位置で、カメラを構えている隼太。

怪訝に思う間に、連続してシャッター音。レンズに手を添え、何かしら弄った後、再びシャッター音が。フラッシュは焚かれて居ない。


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この物語はフィクションです
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