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20120531/たぬ


「とりあえず……行っときますか」

隼太を見据え。
目の前に座る彼が、笑顔で示したその先。突き当たり。
そこにはやはり“御手洗”の三文字が――

今度はヒィ、と声が出た。
咄嗟に首を横に捻るが、必ず隼太を庇いに出る筈の託朗は……どういうつもりかパフェをパクついている。

「通してください」

“有馬先輩”に告げ席を立つと、少年は挑むような視線で見下ろしてきた。
逃げられない。行くしかない。

助けを求めた覚えは一度もない。
守護を望んでいるわけでもなく、むしろ鬱陶しくすら感じているのだが……
この時ばかりは胸の内で“薄情者!!”と叫ばずにはいられなかった。


――が、しかし。
処刑場へと辿り着くなり

「会わせて、やってもいい」

背を向けたままの執行人が言い放った。
向き直る。何故か顔が赤い。

「お、俺はな、ト、トモダチ、を、守る為なら命張れるし、お前のことだって殺せる」

思わず反応が遅れる隼太だったが……

「違う。違った」

違うらしい。

「あんな奴らトモダチじゃない。勘違いするなよ!?
あ、それと俺のお父さ、オヤジはワルだ。
俺に関わるとお前、ヒドい……とてもヒドい事が起こるぞ!!
だから先輩と俺が一緒にいたとか、他で喋ったら殺すからな!? あの人の世間体とか立場がいろいろ……いや、違う。あんなモジャ公、俺とは本来何の関係もないんだ。忘れろ。即時!! 即行!! わかったな!!?」

所々引っ掛けながらも一方的に捲し立てられ、ただただ何度も頷くしかなかった。
先程までの優雅で凛とした様子は微塵にもない。
自分と同年代の、ただの少年。

「じゃあ会わせてやる。嫌だけど。俺は行かない、安心しろ。今日の事も忘れろ。全部」

取り出した手帳を開き何やら書き込むと……そのページを破り、手渡してくる。
急ぎ確認すると綺麗だとは言えない文字で来週末の日付と時間、そして“ヌピ力”という謎の単語が記されていた。

礼を述べなければ。しかし怒涛の展開に圧倒されその言葉が呼び出せない。
急ぎ必死で探す無言の隼太に対し――

「あ」

まだ何かあるのか。

「お前、写真撮れ。報告しろ。できるだけ沢山、自然な感じがいい。犬もモジャ野郎も全部だぞ!?」

ここに連絡しろ。
言うなり切れ端を奪い返す。
電話番号を書き込み再度手渡すと……
威嚇のつもりか、ふん! と鼻を鳴らし憮然と去って行っ……ああ、躓いた!


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この物語はフィクションです
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