20120523/きぃ
「……ハヤタ、」
出てきたら何て謝ろう、てか話しかけれんの俺。
独り思考に没頭していた隼太を、静かな声が誘う。
現実に引き戻された、眼前には何時の間にか、大きめのパフェが鎮座している。
生クリームに苺シロップが掛かり、バニラとストロベリーアイスの山に、チョコレート菓子が幾つか突き刺さるパフェ。
その、ストロベリーパフェの向こう、向かって右から、清流、小綺麗な少年、すらりとした女性、と並んで。
絶句した。纏まらない思考、混乱を極め、隼太は沈黙する。
青ざめたまま、動かない口元へ、パフェから引き抜いたチョコレート菓子を押し付けて、託郎は向き直り、視線を前方に伸ばした。
何時に無く素直に、菓子を囓る姿を尻目に。
「触った事は無いんだ。……誘われる事も珍しくて。」
申し開きは以上だ。突然の要請を申し訳無く思う。
厭に強い眼差しは、正面に座る小綺麗な少年を射抜く。
彼らが不穏な話し合いを終え、再び姿を現した際、隼太は自らの膝頭へ意識を没頭させていた。
「け、慧ちゃ……、」
腹部を押さえながらも、緩みっばなしの表情で、清流が片腕を伸ばす。
「うるさいんだよ、聞くべき事はもぅ何もありません!」
優雅な動作で、縋る手を躱すと、談笑していた女性の元へ。
顔色が紙の様に白い隼太と、それを静かに見詰めている託郎に視線を投げ掛け。
「すみません、有馬先輩。」
慧ちゃん、と呼ばれた小綺麗な少年は、何事かを女性に囁き、一つ頷く。
凜、涼やかに通る声が、長椅子に並んで腰掛ける二人、主に通路側に居る託郎へ届いた。
「もし宜しければ、事情を詳しくお聞かせ願えませんか?」
振り仰ぎ様、その背で隼太を被う。にこやかな表情に、有無を言わせぬ迫力を視て。
何処か既視感を抱きながら、託郎は頷いた。
清流の抗議を綺麗に無視、笑顔は崩さず着席し、メニューを開く。
三人三様に注文、追加注文は良いのかと聞かれた託郎は、逆さに覗くメニューの一点を指し。
黙する慧から、隼太へ視線を移動させた託郎は、手短に状況を説明。
理解した隼太が、慌てて顔を上げた先には。
がむしゃらにケーキを掻き込む清流、カップを傾け、携帯電話を操作する歌澄。
二人に挟まれた慧が、厳かに口を開いた。眼差しは、挑む様に強い。
「良いでしょう。よく、判りました。」
ひくりと、隼太の喉が恐怖で鳴いた。
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この物語はフィクションです
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