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20120122/たぬ


意味が判らないのは勿論少女も同様に。
彼は果たして誰だっただろうか……

「有馬サンっ!!」

そんな中への助け舟、その呼び声に彼女は内心安堵した。声の主は清流の連れの一人である。

「ヤベー! つか私服だし!! 日曜までオレらと会うとか災難スね!!」

「ねー。キヨなんかコドモいぢめてるし」

「そーなんスヨ!! 犬見たいってガキが言うのにダメダメダメダメ、コイツマジ大人げねーっつか」

「あ゛あ゛あ゛!!!?」

まさかの伏兵、その存在を失念していたことに清流が悲しみ、絶望、負の感情の総てが込もった嘆きを漏らす。

彼が事を丸く収める、その最終局面で毎度現れ全てを爆砕する……それがこの憎き悪友。最早様式美なのである。

「あれ、キヨ犬飼ってた??」

「知らねーけど犬散歩してたの撮ったとかガキがむぐォッ!!?」

「ちょっおまっ、つかテメ、ナニ然り気にヒトのハナシ全聞きしてんだよ!!?」

慌てて黙らせようと飛び掛かるも、時既に遅し……

「――嵯峨野、先輩?」

混沌雑然とした場を突如として制する凛然かつ玲瓏とした声色。
呼ばれた本人のみならず放心していた隼太までもがハッと瞠目した。

あの日の少年。

その彼が突き立てた右手親指で以って、くいっと示した自身の後方突き当たり。

そこには“御手洗”の三文字が――

「え゛、や゛、慧ちゃん違っ、違って!! オレっ、オレはちゃんと、ちゃんとスーちゃん守っ」

「黙れよ」

狼狽しつつも必死に弁解せんとする大の男を一睨みでいなし、少年は彼を引き摺って行く。
シュンとうなだれた耳や尻尾が見える勢い、明らかなる主従関係。

清流が先程仄めかした事情。
犬に関する話を頑なに渋った理由。
何処から生まれ何処へ集約されていたのかを隼太はその姿で察してしまった。

現状に至らしめた根源は自分。
しかし解決する術など持ち得ない。

今すぐ逃げ出したい心境、しかし清流に何も告げず去るというのはどうしても憚られた。

おろおろと彼らの友人連中を見るも、気にも留めず和気藹々笑い合っている様が映り更に混乱が増す。

結局何もできぬまま二人の姿は消え。
暫しの沈黙。

そして――

用を足しに行った先とはとても思えぬ音が等間隔で鈍く、重く、何度も外へと這い出してきた。

それに被せるようにしてユルシテッ! だのゴメンナサイッ! だの、やけに浮ついた声での謝罪の叫びも……。


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この物語はフィクションです
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