20120114/きぃ
焦燥が喉を干上がらせ、隼太は口を閉じた。
細身の眼鏡をかけた、小柄な少年はあの日清流と笑っていた。
楽し気な声が脳裏を過ぎる。
そういうのは気になんない??会えればそれでヨシ??
清流の言葉は、刺さったまま。
他人が土足で、自らのテリトリーに踏み込めば、いい気はしないだろう。
大義名分を盾に、自分はこの青年を困らせた。殴るのではなく、言葉を使って気付かせようとまでした、優しい青年。
「……ごめんなさい、」
託郎の眼を覆っていた手が、力無く垂れ、長椅子へ身体を預けた。無礼を自覚し、隼太は清流を振り仰ぎ謝罪した。
対して当の本人は、それを気に掛ける余裕すらない。謝罪さえ、耳に入ったか怪しい。
なんでなんで慧ちゃん!?真打ち登場?!ここで!?このタイミングで!!?てか歌澄っちゃぁあんオレが悪者みたいな発言ナチュラルにすんなや!!
強張った顔は青ざめ、次いでぎこちなく笑みを象り、
「す、凄ぇ偶然ぢゃん!なになに二人でお出かけ??」
このままでは、状況が更に悪化する、と判断し清流は努めて軽快に声を掛けた。
「まぁ、そんなところです。」
怪訝な表情で小さく首を傾げ、上目遣いで答えた少年。途端に清流の表情が、眼に見えて緩む。
「そしたらキヨが子供虐めてるから、びっくりしたんだょ?」
緩いウェーブの髪を、アップにした女性が、その隣で声を添える。
「や!違うし!!」
胸中毒づき、即座に否定。しかし、上手く言葉が見付からず、清流は口を開いたまま思考する。
「カスミちゃん、」
どう話せば良いか、頭を悩ます清流の耳に、静かな声が、確かに届いた。
驚愕。思わず見下ろす先には託郎。解放された視線の先には、少女が居た。
「ラーメン屋、チュウガクセイになるならお祝いしなきゃ。だ。」
後、名前はカスミちゃん。
怪訝な隼太、驚愕の清流、状況が飲み込めて居ない二人連れを、交互に見遣りながら、託郎は語り、一ヶ月と五日前だ、と言い添えた。
言動は冷静に、視線を隼太に据えた託郎は、その髪に指を伸ばす。
「カスミちゃ……いゃいゃ意味判んねぇし、」
梳き上げる指はそのままに、何それ、呆然と答える隼太。胸中で、清流は激しく同意した。
その視線の強さも、行動も、訳が判らない。
注がれた少年からの視線も、痛かった。
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この物語はフィクションです
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