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20111221/きぃ


急に荒いだ声に、小さな肩が震えた。
今にも掴みかからんとする清流。何か、応えなければと隼太は口を開閉させる。表情が徐々に強張り、眉間に皺が寄って。

「犬だ。」

対峙する二人に、割って入ったのは、それまで静観していた託郎。テーブルの下を這い潜り、隼太を窓際へ押しやる。ぅあ、漏れる声をものともせず、その手を掴むと憮然とする清流へ、握られたままの携帯電話を翳した。

「素敵なんだ。ふわふわもこもこかっけー犬だ。」

静かに話す。決して逸れない目線は、清流に向けられている。

「嵯峨野清流。知ってるなら教えて欲しい。……触ってみたいん、」

突如、託郎の口を塞ぐ手。背後に回る隼太が、長椅子の上で体勢を立て直し、端的で伝わんねー、と呟いた。

「ケイちゃ……ん、て、この犬の事?」

上目遣いで、怖ず怖ず尋ねる。

「その、こないだ、たまたま撮れたんだ。あんまり可愛いから、もっかい会えればなって、こんな犬あんま見ないし、ぁ、勝手に写真撮ってごめんなさい……、でもぁの、」

重ねて、縋る様に話す隼太。

「今度チュウガクセイになるから、お祝いしなきゃ、なんだ。」

続いて付け足す託郎。


は?なに?
全く話に付いていけない清流。意味不明な気迫と必死さが、プレッシャーとなる中、それでも思考を巡らせる。

取り敢えず、道端の犬に子供が群がるアレの、規模がデカイ感じ。

しかし。彼らの要望は、到底呑めた物では無かった。
犬に会わせる。即ち、それは自分の企画する、完璧な逃避行デートを打ち砕く事になる。

「や、てかんな話信用できっかょ!」

漸く辿り着いたデート。忘れられない、尊い表情。
苦労に苦労を重ねて手に入れた、彼からの信頼。
壊す訳にはいかない。

「犬なんか他にいんだろ?なんも俺に関わんなくたって、」

慧ちゃん、ぜっってぇ守ってみせっから!

拳を固め、

「無理、無理無理!絶対無理!」
清々しく清流は言い切った。
勝ち誇り、二人を見下ろす。

託郎の、静かな眼差しが僅かに翳り、隼太を掴んだままの手に、力が篭る。口元にあった小さな手が、咄嗟にその眼を覆う。
俯きデジカメに視線を流す隼太。ゆっくり息を吸うと、眉を寄せ、絶望感が漂う表情で、清流に言った。
「リアルに一回だけ、お願いします。俺、何でもするから……!」

切られた言葉は震えて、視線は痛い程だった。


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この物語はフィクションです
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