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N O S T Y L E



※発端※


 荒々しい物音。人と獣の息遣いが混じり合う室内。
 書類が舞い、ガラスの割れる音が時折響き、後に短く続く悪態。踏み荒らされる部屋、石畳に反響する争いは終りの見えないかと思われた。

 壁に掛けられた時計が11を指して、華奢な振り子が鳴る。
 上辺が曲線を描く、ゆったりと切り取られた窓から、一陣の風が吹込み、生成色のカーテンがはためいた。

 一際高く、獣の声が上がり、それまで部屋に満ちていた荒々しい物音が、止んだ。
 壁の片側を本棚が埋め尽くす、石造りの部屋。窓の直ぐ下に大きめの書斎机。回転椅子が、ドアの近くに転がり、様々な本と落下して粉々になったビーカーやマグ、紙片の散らばる床から、むくりと身を起こす人物。

 長袖のシャツに白衣をひょいと羽織る青年は、片腕を挙げ唸る。

「このクソ猫……、」

 首根っこを摘んで持ち上げ、まだ幼い黒猫を一瞥。
 視線が部屋をなぞり、青年は虚しく猫に呟いた。

「てめぇの所為で整理やり直しぢゃねぇか……、」

 力無く座り込んだ、ひんやりする石畳には様々な人物のカルテが散らばっていた。





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