ハロウィン後日談


登場人物補足
アリルナ・アベイユ : スナイパー
ヴィオリーノ :テンペスト
ルナフィクス :ウィンドウォーカー
ルノカディ :クルセイダー

「えぇ〜〜お菓子ないの〜〜?!」

目的のお菓子を獲得するために4時間待ちをも辞さない勢いで楽しみにしていた金髪ポニーテールの弓使いは、目の前で欲しかった物が品切れたような反応を見せた。

「あのな、俺お菓子常備してるタイプじゃないし、俺じゃなくてアリルナに貰えばいいだろ?」
「え〜〜だってヴィオちゃんが、ルノくんならアリルナお姉ちゃんよりおいしいお菓子持ってるよって言ってたんだもんー!」
「あいつ……」

呆れた顔をしたルノカディであったが、ふと数時間前のルナミリィの姿を思い出し、呆れからある種の怒りへと変わっていった。

「ルノくん怒ってるの…?」
金髪ポニーテールのフィクスは、不安そうにルノカディを見つめた。

「いや、怒ってないよ。君の姉妹はつくづくいたずら好きだなと思ってね…」
「…??そうかな?」

普段ヴィオリーノがそんなにいたずらをしている覚えがなかったフィクスは、ルノカディのセリフを疑問に思った。だが彼女にとってそんな疑問は二の次であった。

「…やっぱりお菓子ないの?」

少し目をうるうるさせながら上目遣いで(恐らく意図的ではない)聞いてくる目の前の弓使いに、ルノカディは再び呆れながら言った。

「君も諦めが悪いんだな…」





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「ねぇ、ルナお姉ちゃん」
「ん?どうしたのヴィオリーノ」
「フィクスはどうしてあんなに純粋なんだと思う……?」

ハロウィンの装飾で賑わうセントヘイブン、幽冥の庭から帰ってきた弓使いのアリルナと、その妹のヴィオリーノはベンチに座ってフィクスの帰りを待っていた。

「そうねぇ……あの子は幼いから。深く考えたりしないんじゃないかな、きっと。」
「なーるほどねぇ…私と双子だなんて益々考えらんないわ、ほんっと。」

ディアマンテハットと呼ばれる、いかにもカウガールが身につけてそうな帽子を深々と被るクールな性格のヴィオリーノは自分と正反対と言ってもいい明るい性格のフィクスを常に気にかけていた。

「まあいいじゃない、ヴィオリーノだって純粋に優しい子なんだから。なかなか表には出さないけど」
「…っ!恥ずかしいからやめてよお姉ちゃん…」


普段感情を表に出さない、とっつきにくいタイプと認識されているヴィオリーノは唯一、姉のアリルナに対してだけは本心を見せている。前線で戦い、被弾を避けられない彼女はその分周りに助けられる事が多く、常に感謝の心を持っているがそれも周囲に直接発信することはないのだった。

「ほら、フィクスちゃんが帰ってきたよ。」

ふふっという笑みを浮かべたアリルナは、持ち前の視力でトボトボ歩きながら帰ってくるフィクスを見つけ、彼女の表情を見てルノカディがどんな反応をしたのかなど聞くまでもなかった。

「おかえり、フィクス。」
「ただいま!お姉ちゃん!ヴィオちゃん!」

姉2人を見つけたフィクスは、さっきまでの表情が嘘だったかのように満遍な笑みを浮かべた。

もちろんルノカディがフィクスにあげるだけのお菓子など持っていないことを知っていたヴィオリーノは、フィクスが落ち込まないようにアリルナと打ち合わせ済みであった。

「はい、これフィクスちゃんの分。」

そう言ってアリルナは、フィクスの好きなお菓子を取り出した。
するとまるでお花が咲いたかのような表情でフィクスはお菓子を受け取った。

「わあああい!ありがとう!!お姉ちゃん!」
「お礼ならヴィオリーノに言ってね、フィクスちゃんの好きなお菓子教えてくれたのヴィオリーノだから。」
「や…やめてよ!たまたまフィクスがそれ食べてるの見かけたからよ…別にそんなんじゃ」
「ありがとうヴィオちゃん!」

フィクスの素直な言葉にヴィオリーノは顔を赤くしてより深く帽子を被る。いくら姉妹でもお互い前線で戦う身として、クールな印象を崩したくないが故の行動であった。

「ねえねえアリルナお姉ちゃん。」
「どうしたの?フィクスちゃん。」
「1年に1回のハロウィンだし、折角だから私、今年もお姉ちゃんとヴィオちゃんと一緒にお揃いのハロウィンの服着てどこかネストにでも行きたいなぁ〜って思うんだけど、どう?」

毎年訪れるハロウィン、10月の半ばぐらいから街もハロウィン仕様に風変わりするが、それに伴ってこの時期にしか売られていない服もある。しかも毎年デザインが異なり、色も2〜3色ほど用意されるのだ。

フィクスは普段から姉妹の中では1番の衣装持ちでどこか行くたびに気分で戦闘服を変える、言わばおしゃれさんだ。そんな彼女がハロウィン限定の服を見逃すはずがなく、今回も記念に姉妹3人でお揃いの服を着て遊びに行こうという提案である。今回も、というのはもちろん、フィクスが毎年提案しているからに他ならない。

「いいんじゃない?毎年この時期のお洋服楽しみにしてるものね。ほら、逃げないのヴィオリーノ。」

恥ずかしがり屋のヴィオリーノはフィクスが提案している最中に抜き足差し足でその場を離れようとしていた。というのも毎年アーチャーの服装は露出の高いものが多く、今年のデザインは(ヴィオリーノ比で)高めと言ってもいい。
スカート部分が鳥カゴのようになっているデザインは、普段リリエンタルでがっちりガードしている彼女にとっては少々刺激の強いものであった。


「ヴィオちゃんぜ〜〜ったい似合うと思うんだけどなぁ〜」
「だ……だって……あんな露出の高い服……着るの恥ずかしいっ…からっ…」
「まあまあ、そんなこと言って毎年着てるじゃないヴィオリーノ。それに着るのはあなただけじゃないんだし、街にも着てる人結構いるから大丈夫よ。」


必死の抵抗虚しく姉の推しに弱いヴィオリーノはあっさり逃げることを諦め、はぁ とため息をついた。


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「おまたせ〜〜!」
着替えを済ませたフィクスは元気よく姉の元へ向かった。
今年の衣装の配色はオレンジ基調のものと白基調のものがあり、フィクスのチョイスで3人ともオレンジを着ることに決めた。着替えを終えた2人はヴィオリーノを待つだけだったのだか、何分経っても彼女が来る気配はなかった。

「来ないねぇヴィオちゃん」
「そうね…きっと着替えた自分の姿見て恥ずかしがって出てこないんじゃないかしら。」
ふふっと笑いながらアリルナはフィクスのつぶやきに答えた。

「私様子見に行ってくるよ!」
「いってらっしゃい。」

フィクスが様子を見に行くとアリルナの言う通り鏡の前で顔を赤くして立ち尽くしているテンペストの姿がそこにあった。

「ヴィーオーちゃーーん!」
「うわぁっ!!…脅かさないでよフィクス…心臓止まるかと思ったじゃ…」

突然背中に温もりを感じたヴィオリーノは言葉を止めた。胸のあたりに見える華奢な両腕。

「ねぇヴィオちゃん、私嬉しいんだ。お姉ちゃんとヴィオちゃんとこうして同じ服着て、こうして一緒に過ごしてることが。ヴィオちゃんとってもかわいいから、これぐらい露出した服の方が似合ってるよ。…いや…かな?」

フィクスの不安そうな声にふふっと笑みを返し、そっと胸の前にあるフィクスの両手に、ヴィオリーノは自分の手を重ねた。

「いやじゃないよ、恥ずかしいだけなんだ。フィクスがそう言ってくれるのとっても嬉しい。さあ、アリルナお姉ちゃんの所に戻ろうか。かなり待たせちゃった…ごめんね、フィクス。」
「ううん、いいの!こんな可愛いヴィオちゃん見たらお姉ちゃんも許しざるを得ないから!」


そしてフィクスは楽しそうにスキップをしながら、ヴィオリーノはほんの少しだけ恥ずかしがりながら、アリルナの元へ向かうのであった。






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