ミリィ姉さんのハロウィンミニストーリー


登場人物補足:
アリルナ(スナイパー)
ルナミリィ(セレアナ)
ルナフィクス(ウィンドウォーカー)
ヴィオリーノ(テンペスト)
ルノカディ(クルセイダー)


10月31日は待ちに待ったハロウィン、セントヘイブンもハロウィンの装飾で賑わっている。
そんな中1人、ルナミリィは新しく解放されたネストについて考えていた。

「んー…やっぱりあそこはラーバを撃つべきかしら…ちょこまか動かれるのが厄介なのよね…もっと敵をよく見る必要があるわ、もっとうまく」
「ミリィお姉さーーーん!」

そこへ満遍な笑みでやってきたのはアリルナの双子の妹、フィクスである。
あまりの元気さに圧倒されながらミリィはフィクスに疑問の表情を投げかけた。

「なーに真剣な顔して、考え事でもしてたの?ハロウィンだよぅ、ハロウィン!トリックオアトリート〜!えへへ」
「そうね…ごめんなさいフィクスちゃん、私お菓子何も持ってなくて」

まさかお菓子を要求されると思っていなかったミリィは、申し訳なさそうに謝った。しかしフィクスはそんなこと気にする様子もなく続けた。

「大丈夫だよ!いきなりトリックオアトリートって言ってお菓子くれる人なかなかいないもん。そうそう、門扉前でよく見かけるルノカディくんがとびきり美味しいお菓子を持ってるって情報を聞いてね??ミリィ姉さんに教えてあげようって思って!」
「なっ…」

ルノカディ、その名前を聞いた瞬間ミリィの顔は赤くなった。ファイヤーシールドしてるわけでもないのに、暑い。
こいつは確信犯か…?と思ったが当のフィクスはそんな様子もなく、ナチュラルにおいしい情報を分けに来ただけのようだ。

「せっかくハロウィンなんだし、トリックオアトリートって言ってきたら?私これから出かける予定あるから後で行こうと思ってるんだ〜!どんなお菓子くれたか教えてね?」

つまりフィクスは、ルノカディが持っているお菓子に興味があるのだ。そんなの自分で行って確かめたら、とも思うがなぜか心に引っかかるものがあってそう言うことができない。直接お菓子を貰いに行こうと決心している自分がいる。

「フィクス何してるの」

複雑な思いを整理できずにこんがらがりそうになっているところに、別の声が舞い込む。

「あ、ヴィオちゃん!今ね、ミリィ姉さんに…」
やってきたのはフィクスの双子、ヴィオリーノである。フィクスに比べてクールな性格の持ち主で、あまり感情が表に出ないタイプだ。深く被ったディアマンテハットが、一層その印象を強めているのかもしれないが。

つらつらと説明し終えた笑顔のフィクスに対し、ふーんと言った表情で興味なさそうにしてるのかと思いきや、


ニヤリ


不意にミリィの方を向いてそんな表情を浮かべたような気がした。いや、気がしたと思いたいだけだ、確実に獲物を見つけたときの目をしている。

「へぇ〜、それはどんなお菓子が貰えるのか楽しみだね。さ、フィクスは私と幽冥の庭にでも行こうか。お姉ちゃんが待ってる。」
「うん!お散歩行く〜〜!ミリィ姉さんまたね!」
無邪気に笑うフィクスがせめてもの救いだ…などと考えながらミリィはなるべく心の内を悟られないように「行ってらっしゃい」と手を振った。

「あ、そうだ。」

ヴィオリーノが振り返りながら思い出したように言った。

「ルノカディならさっき、雪解けの森に行くって言ってたよ、今頃キャデラックで準備してるんじゃないかな。」

こ い つ …!!

まさかヴィオリーノがあんなやつだったとは…と、意外な一面に驚かされながら、「余計なお世話よ」と心の中で毒づいた。





ヴィオリーノが言った通り、ルノカディはキャデラックで出かける準備をしていた。ミリィは見慣れた後ろ姿を見つけるや否や、無意識に駆け出していた。平穏な街のBGMと人々が歩く喧騒の中、一つ、自分に向かって来るリズムの速い音を察知したルノカディは、その音の主が誰なのか確信を持って振り返り、いつも通りの軽い挨拶をした。

「やあ、ミリィ。どうしたんだ?そんなに慌てて。」
「………。」

ハァ、ハァという息切れの大きさに、肝心の内容を掻き消される。

「まてまて、とりあえず落ち着け?息切れ凄くて何て言ってるか聞こえ」
「トリックオアトリート!!!!!!!」
「…はい?」

予想外の内容、というかセリフに思わずキョトンとするルノカディ。それもそうだ、まさか切羽詰まったように走ってきた奴がトリックオアトリートだなんて…

「トリックオアトリートって言ってんの!!…恥ずかしいんだから何度も言わせんなバカ!!早くお菓子よこしなさいよ!ハロウィンでしょ!」


「お前もしかして、その為に走ってきたの?」

ただでさえリンゴのような色をしたミリィのほっぺが、その一言でさらに真っ赤に染まる。

「あ……あったり前でしょ!?!?早くよこさないと…い…いたずら…するわよ……」

お菓子よこしなさいに合わせて差し出された右手をそのままにして最初の威勢はどこへ行ったのか、だんだん恥ずかしさに打ち負けていくミリィを眺めながら彼は言った。

「…わかったよ。そんなにお菓子欲しいならあげるからそこのベンチに座って待ってな。」

優しい表情をミリィに向けながら、ルノカディは少し遠くの倉庫に向かって走り出した。
「別に私なんかの為に…急いでくれなくてもいいのに…」というミリィの呟きは勿論聞こえていなかった。


「はい。」
「…ありがとう。」

ルノカディはミリィに飴を一つ渡した。飴の包装はしっかりハロウィン仕様になっていて、尚且つミリィの好きな赤色をしていた。

「まさか、ほんとにハロウィンにお菓子くれって言ってくる奴がいるとは思わんかったわ。ミリィのいたずらだけは勘弁だな、こんがり焼かれかねない。」
「うっ…うるさいわね!!そんなに私に焼かれたいの??焼かれたいならいつでも燃やしてあげるわよ」
「あっははは、冗談だよ。」

ハロウィンの装飾に、ハロウィンのBGM。賑やかな街の中に穏やかな空気が流れようとしているのを、ルノカディは感じていた。


「全く、かわいいやつだな。」


目の前にいるミリィにはきっと聞こえていない。そんなギリギリの音量で、彼は呟いた。

「さて、これでお前の用事は済んだろ?俺はそろそろ…」
その場を去ろうとしたルノカディの裾を、ミリィは縋るように掴んでいた。

「もう少しだけ………一緒にいて……」

それが、彼女が精一杯捻り出した言葉だということを、彼は理解していた。
ルノカディは無言で、しかし穏やかな表情で頷きながら、そっとミリィの隣に座った。



煩く鳴り響く鐘の音を聴きながら、噴水に背を向けてその様子を眺めていたヴィオリーノは、ミリィに向けた笑みとは違う、爽やかな笑顔を浮かべてその場を去って行ったのだった。


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