普段結構乱暴な雪村が最近は何だか大人しい。
いや、大人しいというか優しくなった。話を聞けば本気のサッカーを一緒にやってくれる人がコーチになったとか。
つまり最近私を放置してずっと部活に入り浸っている理由はそれか。
最近あまり構ってくれなくなった雪村の時間を私から盗っているその人に少し嫉妬するが、こんなに楽しそうな雪村は久しぶりに見るのでまあ、いいかと笑顔で話してくる雪村に私も自然と笑顔になる。

「吹雪コーチが居なくなった」

朝、下駄箱で会った雪村に挨拶をしようとするとまず言われた言葉がそれだった。
吹雪コーチは最近雪村が部活のことを私に話す時に必ずといって良いほど出ていた名前、そして10年前のFFIであのイナズマジャパンに居た吹雪士郎さんだ。
「居なくなったってどういうこと?」
「さあな、あの人は…あいつは白恋を捨てて出て行った」
そう言って教室に向かった雪村の顔は以前の吹雪さんが白恋に来る前の雪村の表情に、それよりももっと苦しそうで、寂しそうな顔になっていた。

それからの雪村は、本当に辛そうだった。
本人は「新しい監督は俺達の個性を伸ばしてくれて自由なプレイをさせてくれる!」と口では言っていたけれど、どう見ても吹雪さんが居た時の楽しそうにサッカーをしている雪村じゃなかった。
日が経つにつれ部活後の雪村の疲労は酷くなっていて、心配して少し休むように私が声をかけても
「あの人を超える技を身に着けないと」
「強くなって見返すんだ」
そんなことばかりを口にしていた。

人の話を、私の話も、吹雪さんが出て行った本当の理由も
雪村の昔からの悪い癖だ、一度に一つのことしか見えないで、周りの声が聞こえなくなる。
ねえ雪村、そんなに辛そうにサッカーをする雪村を見てるのは私は辛いよ。

「名前」
「何?」
「明日、遂にホーリーロードで雷門に当たるんだ」

雪村は、吹雪さんに会ったと言っていた。
話を聞いたらどうやらまた吹雪さんの話を聞かず、帰ってきたらしい。それもこれも、あの白咲という奴が雪村に何か吹き込んだのだろう。
雪村はもう決心しているみたいだった。それでも私には迷いが見える。
だから雪村ごめんね、私も白恋中の皆に勝ち進んで、優勝して欲しいそれでもこんな雪村見るのは辛いよ

「吹雪士郎さんですか?」
「…?君は…?」


貴方の為なら私は敵になりましょう


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