Bad status!!
ヒートが女性になってから早三日。メンバー達もヒートの変化にはだいぶ慣れてきた。アルジラに至っては「今を楽しむべきよ!」と最近興味を持ち出した美容に関する知識をヒートで応用していた。されていたヒートは随分とげんなりした様子だったが。ゲイルも「エンブリオンの戦力は前までと違うのだから別の作戦を…」と作戦室で作戦を立てていた。シエロとセラは「ヒートちっさくなったなー!俺と背ぇ変わんないじゃん」「ホント!あ、ヒートの髪ってふわふわしてたんだ…!」と体格が大きく変わったヒートをしげしげと観察していた。


メンバー達も慣れてきたその頃、ヒートの苛立ちは限界まで来ていた。








「サーフ!そろそろどうにかしろ!」

向かった先は、エンブリオンのボス及び今現在ヒートのお目付役であるサーフの部屋であった。トライブスーツを脱いでいたサーフは黒いシャツを身に纏っており、驚いたように開けられたドアの方を凝視した。
憤りを見せるヒートに、作業していたサーフはその手をいったん止める。

「どうした、そんなに苛立って」

「どうしたもこうしたもねえ!もう3日だ!狩りにも行ってねぇし、それにあと一つのトライブを潰すだけなのにもたもたしてたら…!」

「その辺は大丈夫だ。ゲイルとも相談してしばらくあちらも動きが取れないように、隊員達に仕掛けもしてもらった。…少なくとも、今のお前を前線には出さない」

そう言った瞬間、ヒートがサーフの胸ぐらを掴んで、数センチ以上ある距離を一気に縮めた。その表情には、怒りと焦りが含まれていた。鮮血の瞳が、サーフを射抜く。

「馬鹿野郎!お前の代わりは誰もいない、なのに部下の俺を前線に出さないってサーフ、何を考えているんだ!?」

怒りをあらわにしたヒートに、サーフは静かに言葉を返す。

「…部下がいなきゃトライブは成り立たない」

「そんなの、ボスがいなけりゃ、なくなっちまうじゃねぇか!」

「そうなったらお前が次のボスになるんだろう?」



「そうじゃねぇんだよ…!!」

ふと、サーフの胸ぐらを掴んでいた手の力が弱々しくなった。元々力の強いヒートは、女性体になってからも平均よりは強かったが、それでもサーフに比べたら弱い力だったため、今の状態もサーフが抜け出そうと思えば容易にできた。でも、サーフはそうしなかった。ヒートが言いたいことを受け止めてやらねば、きっとこの身体より大きい何かに押し潰されてしまうと感じたからだ。サーフは、ヒートが話すまで静かに、自分よりも小さく、暖かな手をそっと包んだ。



「……俺はエンブリオンのアタッカーだ」

するとおもむろに、自分に言い聞かせるかのように話しだしたヒートは、俯き加減で言葉を紡ぐ。

「戦っている時こそ、自分の生を感じられていた。そう、戦うことこそが俺の生きる意味になっていたんだ。

…だけど今は!こんな身体になって、外へ出て狩ることもできねぇ!アジトん中に居たって、隊員に同情の目を向けられる!
なあサーフ、ここにいる俺は、本当にヒートか?エンブリオンのアタッカーで、アグニのアートマを持った、ヒートか?そうじゃないなら、おれは、なにものだ?」


こたえてくれよ、さーふ。


弱々しく、語尾が消えかかりそうなその言葉を聞いて、サーフはとっさに、ヒートの身体を抱きしめた。サーフよりも小さくなった、震える身体は、あの堂々とした普段のヒートからは想像ができない位に、か細く、儚いものに思えた。それに、今ここでヒートを離したら、融けて無くなってしまうかもしれないとサーフが思ったくらいだ。こんなことしたらいつもなら、抵抗なりなんなりするはずであろうヒートが、電池の切れた人形のように、ピクリとも動かない。サーフは片手でぽんぽんとあやすようにヒートの背中を叩く。割れ物を扱うように優しく、その動作は自然としていた。

「誰がなんと言おうと、お前はヒートだ。…そう、お前の性別、容姿が変わろうとも、お前はお前。エンブリオンのヒート、だろう?」


どう変わろうとも、ヒートはヒートのままだ。



誰にともなく、独り言のようにサーフは言う。しかし、その慈愛に満ちた目は、抱きしめたヒートへと視線を送っていた。そこで、ストンとパズルのピースがはまるように、靄がかかっていた景色が晴れるように、サーフは、自らが感じていた、ヒートへの感情の正体に気がついた。すると、今まで動かなかったヒートがサーフの腕の中でもぞり、と動いた。驚いたサーフはじっとその様子を抱きしめたまま見ていると、頭一つ分くらい違うヒートがサーフを見上げるようにして、顔を上げた。

「…ありがとな、」

そう言って、ヒートは少しばつが悪そうに、慣れていないからか照れ臭そうに、笑った。








「っちょ!サーフ、痛い!」

「ごめん。ちょっと、こうさせてくれ…」

今の自分の顔を見られたらこれからどう接していけばいいのか分からなくなる、とサーフはヒートを強く引き寄せ、顔を見せないように強引にヒートの顔を下げさせた。サーフの顔はと言うと、いつもの平静は何処へやら、目を見開いたまま首まで薄く、赤で染まっていた。驚愕の表情と、照れが混じって流石にこれは見せられないと、サーフはいつも通りの表情を取り戻そうとするが、どうにも油断するとにやけてしまいそうになるのを、必死に留めていた。

ヒートはと言うと、もしかして俺が笑ったの嫌だったのか?と見当違いに内心で悩み始めていた。しかし、サーフの体温が上がって、鼓動が早まっているのがなぜだろうかという、その理由には気づけなかった。

二人が離れたのは、ヒートが見当たらないと幹部メンバーが探し始め、サーフの部屋を訪れてからである。そして二人して、その現場を目撃したシエロに冷やかされ、アルジラに叫ばれ、ゲイルに眉をしかめられた。
「…理解不能だ」
と一言、何時もの言葉も添えられて。













To be countinue?

0731 番外編:Attracted status!


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