Bad status!
油断した。いつも通りなら大丈夫だろうと高を括っていた自分に苛立ち、つい舌打ちをする。腹の辺りが煮え立つように感じ、どくどくと鼓動の音が早まっているようで、うるさい。それに熱い。アートマ態でいる時なんて目じゃない位に身体中が熱く、しかし頭だけは氷を飲んだかのように冷たく、冴えている。

「ぜってー、あの変な悪魔のせいだ…」

食当たりでもない。ディスエイクを試したが、ちっともマシにはならなかったからだ。あの妙な帽子を被った可愛い(とアルジラは言う)悪魔を食べてから、おかしい。アジトまでもう少しだが、一緒にいたサーフはどこへ行ったのか。

「肝心な時に限っていねえのかよ…!」

ふらふらとした足取りで、進もうとするが力が入らない。それに、どうしてかいつものマントが重く感じる。視界に映るものが、いつもより大きいように感じる。なぜ、と考える前にふっ、と目の前が暗くなった。このままのたれ死にしたくはない。それに、他の悪魔の食い物になるなんてまっぴらごめんだ。しかし身体は言うことを聞かない。


ーーヒート!


幻のようにおぼろげに俺の名前を呼んだ声は、サーフに似ていた気がした。



















「ねぇサーフ」

「何?アルジラ」

「…また女の子を拾ってきたの?」

そういったアルジラの表情には呆れの意が含まれていた。好きで拾ってきたわけじゃない、とサーフが言うとアルジラは、じゃあなぜ?と問い返した。
アジトのベッドの上で寝かされているのは、血よりも鮮やかな真っ赤な髪をもった見たことのない女性だ。着ているマントにはなぜか、エンブリオンのトライブカラーが入っている。
しかしマントが大きいのか彼女が小さいのか、彼女がマントを着ている、というより、彼女がマントに着られていると形容する方がしっくりくる。顔は髪で隠れてはいるものの、その伏せられた目を縁取る睫毛が女性らしく、また髪の間から整っているであろう顔を覗かせていた。性別は違えど少なくとも、彼を想像させるような髪色と、服装をしている。この得体の知れない女性をアジトに入れたことを警戒するアルジラに、サーフは一旦ためらうようにしてから、言った。

「これ、ヒートなんだよね」

「……え?」

彼女を観察していたアルジラのその後の行動は素早かった。すぐさま寝ている彼女を起こさないようにそっと身体の向きを左を下に、右を上にして、かつ毛布を剥ぎ取るという大胆さで確認をする。ーー右腕に刻まれた妙な痣、否、アートマが。彼女の右腕には、彼と同じアートマを宿らせていた。

「上位アートマは二つと存在しないはずよ。…本当に、ヒートなの?」

「倒れてたところを発見しただけだから確証はないけど、そのマントといい、いた場所といい、何より、そのアートマが証拠だと思ったんだ」

今までと違うヒートの状態に、アルジラは混乱しそうだから、とりあえずゲイル達を呼ぼう、とアジトの中にいるであろう彼らを呼びに向かった。







アジトの作戦室の中はいつもとは違い、華やかさがあるように思える。いまこの場には、エンブリオン幹部メンバー及びセラのみが集められた。ヒートを除くメンバーで定例の作戦会議となったわけではなく、やっているのはゲイルの応答尋問ーーヒートと思われるアートマを持つ女性への、である。ヒートならば分かる質問や、エンブリオンとして、また各々のアートマのことについての知らなければ分からないであろうことを聞くと、女性はためらうことなく答える。この時点で、ヒートである確証を得ることはできた。が、なぜ彼が彼女になってしまったのか、未だ原因は不明だ。打つ手なしに、ゲイルの尋問(いわば質問責め)はまだ続いてく。

「Q15、なぜお前はあの場所にいた?」

「ニュービー共が俺たちの縄張りに入ろうとこそこそしてたのを俺とサーフ、何人かの隊員で散らしに行ってたからだ。数はあったが、骨のあるやつはいなかったな」

「…Q16、お前のアートマ態は何だ?」

「アグニ。双頭の悪魔。火炎には強えが氷結に弱い。それと、魔力はあんまし強くねえ」

「Q17、あそこにいる黒髪の女の名は?」

「セラ。…そんなんじゃ確認にならないんじゃねぇか?」

「そうだな…」

「じゃあ俺ー!上からスリーサイズ!」

「は?…結構でかい?か…わからんから、触ってみるか?」

「え、マジで?」

「やめなさいバカ共が!!」
パシィン!と猥雑な二人の後頭部にアルジラの叩きが入った。痛そうにさするシエロと、叩かれた理由が本当に分からない、と言いたげなヒートの二人の前にアルジラが立ちふさがる。

「あのね、ヒートは元男だけどね!いまは女の子なの!そしてセラの教育上よろしくないの!分かる?!」

「セラの…」

「ならアルジラも叩くのは良くねーと思いまーす!暴力はんたーい!あと、怒るとシワが増えちゃうぜ!」

「……シエロ、ちょっとこっち来なさい!」

セラの名前を出すと些かちょろくなったヒートとぎゃいのぎゃいの吠えるようなシエロを黙らせようと(物理的に)するアルジラの三人を見てゲイルは、
「理解不能だ」
とこの現状にため息をついた。

「ヒート、本当に女の子になっちゃったんだね…」
顔に困惑の色を浮かべるセラに、サーフはぽん、とセラの肩を叩いた。

「でも、ちゃんと中身は俺たちが知ってるヒートだ。それに、あいつこそ今の現状をまだ飲み込めてないはずだ。セラ、分かってくれるな?」

「…うん、ヒートも大変なんだよね。大丈夫、どんなヒートでも仲間なんだから!」

サーフはセラの言葉に頷き、ヒートと向き合う。

「ヒート、お前はその体になる前に何をした?」

サーフが問いかけると、ヒートはその時の記憶を思い出そうとこめかみに指を当て、考え込むようなポーズもしたが、すぐ、いつも通りに腕を組みながら、問いに答える。

「ニュービー狩りをしてて、そんで、あの変な帽子を被った悪魔を、食った…」

「原因はおそらくそれだろうな。…ボスとして仲間を放置していたことに責任は持つ。治るまで、ヒートは俺と行動する、いいな?」

「…はぁ!?」

唐突なサーフの言葉に、人に指図されることを嫌うヒートはむろん、異を唱えた。しかし、自分が悪魔を食べたからなってしまったわけで、手探りな現在の状況で一人で行動するのは得策ではない。頭ではヒートだって理解してるのだが、プライドが邪魔してついつい反発してしまうのだ。それを知ってか知らずか、サーフはゲイルに意見を求め、ゲイルは眉間を押し上げるような動きをしてから見解を述べた。

「賛成だな。ヒートが女になった今、戦闘能力はアルジラと同じくらいだろう。その身体の使い方も慣れていないだろうし、その状態で一人にするのは得策ではないな。…というのが俺の意見だが」

とサーフの意見に同調する。ゲイルの参謀としての意見は、今までこのトライブを勝利に導いてきた。そんな全幅の信頼を寄せられている参謀がサーフの意見に同調したということは、それが最善策であるということであるのだから、そこにヒートが提案を断る余地は無くなってしまったというわけである。

「決まりだな」

サーフは状況についていけていないヒートの手を取って、
「ヒートのことは俺がなんとかしてみせるからな」
と言って、安心させようと少しばかり顔を柔らかに、微笑んだ。

「………おぅ」

沈黙の後に、小さく返事を返したヒートの顔が心なしか赤くなったような気もしたが、その後のシエロの「じゃあヒートはこれから女子風呂だな!」という言葉で一同がこれからのヒートの扱いを考えなければいけないということを思いし、また騒ぎ始めてしまったため、サーフがヒートのその態度に気づくことはなかった。















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