あぽいんと・でい
「真田サン、俺今回のテストはイケる!って思ったんッスよ…」

「ほぉ、なら順平。その結果はどうだったんだ?」

「お手上げ侍ッス…」

「だろうな」

笑わないでくださいよー!と困ったように叫ぶ順平の声と真田の笑い声が磐戸台分寮のラウンジに響き渡る。今日は日曜日。しかも前期中間テストが終わった週の日曜日である。陰鬱と(主に順平が)していた寮の雰囲気は何処へやら、今や開放的な雰囲気で何事もなかったかのように和やかな朝を迎えたのである。その影響もあったのか、いつもは起床が遅い順平も早く目覚め、日課のロードワークから帰ってきた真田とラウンジでテストのことなどを話していたのだ。

「順平はタルタロスだけでなく、勉学にも力を入れた方がいい。学生の本分は勉強なわけだしな」

「そんなこと言ったってタルタロス行ったらもう次の日なんすよ?眠くてそれどころじゃ…」

と言い淀む順平に、またしても真田は追い打ちをかけるように言う。

「結來はきっちりタルタロスに行っても勉強していたようだぞ。今回のテスト、まあまあの出来だと言ってたが?」

「うっ!」

真田の言葉に、順平は言葉を詰まらせた。どうにもあの転校生ーー結來リトのことは好かない、と順平は思っていた。感情をあまり表に出す方ではないし、人ともあまり関わらない。しかも勉強も運動もでき、タルタロスでは皆をまとめるリーダーとしてふさわしい判断力と戦力。さらには無口な転校生はミステリアスだのクールだなんだのと密かに女子からも人気があった。つまりは、自分にないようなものを持っていて、自分には何があるのか、彼を見ているとわからなくなってしまう。だから順平は彼のことが苦手なのだ。

「あいつも面白いやつでな。『真田先輩ってもっと冷静な人だと思ってました』だとよ。今回のテスト、タルタロスが気がかりでケアレスミスがあったことを言ったらそうやって返してきたんだ。面白いだろう?」

何が面白いのかよくわからないが思い出したのかクツクツ、と喉を鳴らして笑う真田を見て順平は目を丸くした。

「…あいつ、真田サンと喋るんすね」

驚いたように順平がそう言うと、真田は不思議そうにしながら言葉を返す。

「まあな。そんなに結來と喋っているのが珍しいか?」

あんな周りに興味なさそうな奴が真田サンと話してるのっていうのが想像できないだけなんですけどね、という言葉を飲み込んで順平は口を開く。

「いや、あいつ結構無愛想だから真田サンに迷惑かけてたら同じクラスの、…友達として申し訳ないなーって思って」

そう言うと、真田はああ、と言ってまた思い出すようにして笑った。今日の真田サンはよく笑うな、と順平が逸れた思考をしていると、真田は心底楽しそうに言った。

「俺は別にいいが、あいつには言ったんだ。"せめて人と関わって色々なことを学んでみろ"ってな。他人とコミュニケーションを取れば少なくとも接し方を学ぶだろう?」

「え、あいつそれでなんて…?」

まだよく分からないことだらけの結來にそういうことを言えてしまうのはきっと真田だけであろう。恐々と尋ねてみると、真田は至極堂々と言った。

「『俺、努力しますから。もし、このテストで学年トップだったら俺とデートしてください』…だとさ。本当に、あいつは分からないな」

そういった真田の顔は、面白いものを見つけた、子供のように無邪気な顔をしていた。順平は言葉の意味を理解するのに、たっぷり3分は要した。ちょっと待って、この先輩鈍感すぎるのでは?と心配になったし、自分の級友が踏み外した道を歩いてしまっているのを引き戻してやるべきか否か、など頭の痛い内容に順平はどのように向き合えばいいのかーーまだ部屋から出てこない結來とこれからどうやって顔を合わせればいいのか。


まだまだ日曜日の朝は始まったばかりだった。







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お題:「俺、努力しますから」


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