Where ghost to enter?
ここは科学の権威が集うEGGーーこの施設では最近まことしやかに囁かれている噂があった。






「はぁ?幽霊?」

非科学的な言葉に反応し、何を言っているんだこいつはと眉を顰める黒髪の男。十人見たら十人が美しいと評すであろうその顔には呆れとも言える表情が浮かんでいた。

「俺だって信じてない」

そんな男の様子を見て、自分がバカにされているような気がしたためか反対に座っていた金髪の男がむすっとしたまま口を開いた。

カフェテリアの一席、今の世界じゃ日に当たることは自殺行為にも等しいが流石EGG内ではそれ相応の設備を施しているため、窓側の席で二人はランチをとっていた。
端から見れば美形二人が、向かい合って食事をしている。背景は一面薔薇の花が咲き乱れることになるであろうその状況に、周りにはいつしか二人を眺めるために座る女性や、いつ二人に連絡先を渡そうか、はたまた食事にでも誘おうかとタイミングを計る女性などでそれはもう華やかな場となっていた。悔しげに歯をくいしばり隅に座る男性たちもいるが、彼女たちは視界にも入れていない。
そんな良い意味でも悪い意味でも目立っている二人は周りを気にしている様子はなく、話を続けている。

「科学技術の中枢でもあるココでそういうことを言うのかい」

「だから俺じゃないって言ってるだろ。…数日前に見たそうだ」

ーー白いワンピースを着た長い黒髪の女性が、廊下を横切っているところを。

潜めて話す金髪に、何が可笑しいのかくすくすと笑い声を上げた黒髪は金髪が不機嫌そうになるのも気に留めず、言葉を返す。

「それってどこかの女史が歩いてるのを見ただけじゃないのか?くだらないことに首をつっこむのは君の悪い癖だな」

「噂ならそれで良いんだ」

「…なら?」

「その女はテクノシャーマン…セラのところへ向かおうとしている様子だった、らしい」

テクノシャーマン、と言った途端にさっきまでとは一変し今度は黒髪の男の方が不機嫌そうな顔つきになった。金髪はその様子に気づいたが、見て見ぬ振りをし「そうだったらどうする?」と返答を待つ。

「…神の実験に支障をきたしてはいけないな」

「そうだな」

溜め息一つ吐いた黒髪ーーもといサーフ・シェフィールドとその言葉に応じ、言葉を返した金髪ーーもといヒート・オブライエンは思い立ったように同時に立ち上がってカフェテリアを後にした。周りは何があったのかとぽかんとしていたが、彼らには関係のないことであった。










「というかヒート、それは誰から聞いたんだい?」
「…風の噂、っていうかフィジカルセンターに居た奴たちがそう言ってるの聞いただけだ」
「ふぅん、そんな信ぴょう性に欠けることはあまり信じたく無いけど…それはいつ頃の話?」
「もう随分長いらしい。ここ最近になって噂が立ち始めただけで数ヶ月前からだ、と言ってたやつもいた。」

そう言いながら彼らが来たのはテクノシャーマン実験の関係者が集まるラボの仮眠室であった。

「ま、夜までまだまだ長いし。セラも起きていないから今日の仕事はもう無いね」
「…それでサーフ?なんで俺の腕を掴んでるんだ?」

サーフはヒートの腕を取ると、そのまま仮眠室のベッドに誘い込むようにしてグイッと力強く引いた。突然のことだったためヒートは無様にもシーツの海へと飛び込む形となった。訳が分からず状況を把握しようとヒートが顔を上げるとそこには恐ろしくなるほどにこやかに笑っているサーフがいた。

「ちょっとゆっくりしていこうじゃないか」














「…お前についてきたのが間違いだった!」
「相談してきたのはそっちだろ」

仮眠室の狭いベッドに唸りながらうつ伏せになって横目でサーフを睨むヒート。タオルケットにくるまってはいるが、見たら何をしていたかくらいは把握できるようなヒートの姿を見ながらサーフは機嫌良さそうにしている。ここに部外者が立ち入らないようにボードを部屋の前に出してきたが、最近ご無沙汰だった為か、はたまたこのいつ誰が来るかわからない状況に興奮していたからかやけに感度と声がいつも以上だったヒートのせいでもしかしたらバレてるかもしれないが、そこまで良かったならそんなこと気にすることもないな、とサーフはひとりごちる。

「くぅ……、腰が、痛い。お前マジで加減とかないのか…?」

「残念、これでも抑えてた方なんだけどなぁ」

「…!?」

さらりと言ってのけたサーフは驚愕したヒートを尻目に淡々と話を続ける。

「それよりその女性、俗に言われているような霊的存在は実在するしないで長い間議論されてはいるけど…。今回のは不可思議だ」

「…不可思議も何も、そういうのが目撃されてる時点でおかしいだろ」

「そこだよ」

サーフの思わぬ発言に言ったヒートの方が目をぱちぱちと瞬かせる。何を言わんとしてるのか、サーフは仮眠室にあるサイドテーブルを指先でコツコツと叩く。


「そもそも"ghost "がなんであの幼い女神の元へ行こうとしてたんだ?しかもこうも大勢に目撃されてるのに、なぜ誰も動かない?」

「そんなの、どうしようもないからだろ」

「それに…幽霊は害をなすのには何か生前の恨み辛みがあるからと言われてるけど。ああいうのは何らかの意図があって、自分と関わりのある人の目の前に出てくるわけだろ?」

「ああ」

「外界との接触を絶っているテクノシャーマンの前にそういった輩が現れると思うか、ヒート」

「…なさそう、だな」

「つまりは」

ヒートの返答に満足したようで仮定の証明をし終わった時のように、サーフはにやりと口角を上げた。

「ここにその"ghost"がいるわけだ」

幽霊じゃなく、生きた人間のね。


そう言ってサーフはバインダーに挟まれた紙を手に取り、ヒートに渡した。
どこから調達したのだろうか、そこにはEGGで働いている者たちの名前が並んでいたのだった。



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