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なんだか今更ながらここまでやってこれたのは本当にすごいことだと思う。色々な壁もあったが、みんながいてくれたおかげで乗り越えられたのだと俺は思ってる。
自分の今までの人生で執着してきたものは少なかった。ましてや、自分が生きていることさえ、どうでもよかった。なぜならようやく好きになれたと思うと、そこから離れなければならないということが多々あり、幼いながらも関わりを持たずして行こうと思っていきてきた節があるからだ。
でも今は…多分、違う。
守りたい誰かと、守るべき世界が出来た。無茶をすれば心配し、叱ってくれる仲間たち。そして、そんな仲間たちと巡り合わせてくれたこの世界。
ーーそのためなら、俺は、自分を。
そろそろ影時間になる。今日は課外活動部の"最後"の活動だ。終わったらーーみんなで海牛にでも行くか。
間違いない、彼の筆跡だ。手の中にある本には、彼と共に戦いに向かった最後の日から記されていない。
パラパラとページをめくり、彼の記憶を遡る。
7/21
屋久島の海で金髪蒼眼の女の子に会った。儚げでとても綺麗だったけど、何処かで見たことがあるような気がしてならない。多分あったことあるならわかるはずなんだけど懐かしい、という気持ちがあるのはなんでだろう。…デジャヴ?
最後の一文にキュッと胸が締め付けられるのを堪え、また飛ばして、次に見たのは"彼ら"になってからの文章だった。
11/8
やっと自分のことがわかった気がする。安心した、なんて不謹慎ながらもそう思ったんだ。
けど、滅びに向かうだけなんて、そんなの絶対に認めない。…彼を孤独にさせる訳にはいかない。
だから俺はけじめとして、彼を倒さなければならない。何があっても、絶対に。
読み終わって気づいたが、開いていたページの紙が点々と湿っていた。
もともとそうだったのではなく、私の目からいつの間にかぽろぽろと、涙がこぼれ落ちていたからだ。涙腺の代わりの器官といえど、私は心を持っている。器官のはたらきや用途はわかっていても、どういう時にその現象が起こるのか分からなかった私に、彼は教えてくれた。幼かった心は彼に育てられ、今では人並みにはある。
そんな私の心を締め付けたこの文章ーー彼の思いは、なんとも純粋で、自分の意志を持って書かれていた。彼は自分と世界、という秤に掛けるのことすら躊躇するようなものなのに、迷うことなく世界をとったのだ。
正直に言うと、もう少しわがままを言って欲しかった。彼が死にたくない、と言ったなら私はきっと彼のために、どこか遠いところへ逃げて、世界が終わる最後の瞬間まで隣で寄り添っていただろう。
「…あなたは本当に強い人だったんですね」
強くて優しい、滅びにさえ立ち向かっていった彼は、もういない。
へたり、と床に座り込んだ足は無機質。温もりも何も感じない、冷たい人工の脚だ。
けれど彼はそんな私の脚を綺麗だと、ーー私のことを綺麗だと褒めてくれた。
「あなたは本当に凄い人です。私はあなたに何度も救われました。…今も、救われました」
3月5日。特別課外活動部が集まった最後の日。
そして、
「私はあなたのこと、未来永劫忘れません」
ーー彼と過ごした最後の日。
End