ご奉仕しましょうか?

季節は流れ。
烏野高校にも、学校祭の時期がやってきた。
学校祭前の校内は、いつもより賑わいでいる。
教室を飾り付ける者、演劇で使う衣装や小道具を作っている者、書類を片手に真剣に話し合っている者、様々だ。
特にイベント好きの生徒達は、楽しそうにキャイキャイはしゃいでいる。
そんな中、ごちゃごちゃと物が置いてある廊下の上を、もの凄い勢いで駆け抜ける者が、一人居た。

「うおっ、ビックリした〜」
「なんだ今の早いの…って、日向じゃね?」

そう、日向だ。
偶然廊下に居たクラスメイトが、通りすがりの日向を見るなりギョッと目を見開かせる。
廊下は走っちゃいけません、なんて学校のルールも、今の日向には関係無しのようだった。
向かう先は、1年3組。
頭の中に浮かんでいるのは、いつも見ている仏頂面。
さっき、学校祭の準備をしている最中に、クラスの女子が話しているのを、たまたま聞いてしまったのだ。

『ちょっと、聞いた?3組の話』
『あ、聞いたよ!確か、クラスの出し物で…』

なんて会話を聞いた日向は、一目散に教室を飛び出し、3組の教室へと向かった。
そういえばここ最近、影山の様子が可笑しかった気がする。
例えば帰り道とか、学校祭の話を出せば、常に不機嫌そうな顔を更に不機嫌そうにして。
「学校祭、お前のクラスにも顔出すからな!」と言えば、「ダメだ。絶対来るな。来たらぶっ飛ばす」なんて脅された。
どうにも、影山の前で"学校祭"というワードは禁句らしく、話を逸らされたりされたことが何度もある。
そして、そこまで拒否していた理由が、やっと分かった。
日向の足が、3組の前へ辿り着く。
みんなが準備をしている中、勢いよくスターンッとドアを開けた。

…そして。


「影山っ!!」
「っ、な…っ!?」

大声でその名を呼べば、教室の隅っこで何やら打ち合わせをしていたらしい影山は、日向の登場に気付き、驚愕の声を上げる。
その表情は、まるでこの世の終わりに直面したかのような、絶望的な色に染まっていった。
まさかここに日向がやって来るとは思ってなかったのだろう。
一方日向は、視界に飛び込んできた光景に、全身を震わせる。
黒を基調とした、可愛らしくかつ大人っぽいデザインとなっているミニスカワンピース。
レースを惜しげ無くあしらった、フリフリヒラヒラのエプロン。
そこから覗く、影山の筋肉質でゴツい生足。

「ギャハハハハハハハハハハハッ!!」
「っ!!」
「に、似合わねぇ〜っ!!」

日向は、盛大に爆笑した。
ミニスカメイド服姿の影山飛雄を見て。
腹を抱えて指を差しながら、大声で笑い転げた。
が、次の瞬間。

「この…っ、ボゲゴラアアアアアアアアアアアアッ!!」
「ひーっ!!」

影山は般若のような恐ろしい形相になりながら、教室の前で笑い涙を浮かべている日向の元へ、全速力で飛び掛かっていった。
その背中に背負っているのは、今まで人を何人か殺したことがあるんじゃないかと問いたくなるほどの、殺気。
その形相と殺気に当てられ、日向は思わず後退りをしてしまう。


クラスの女子の会話には、続きがあったのだ。

『ちょっと、聞いた?3組の影山くんの話』
『あ、聞いたよ!確か、クラスの出し物で男装女装喫茶をやるんだよね』
『そうそう!それでね、さっき3組を覗いてきたら、影山くんがメイド服に着替えてたの!』
『キャー!見に行かないとっ!』

…と、いうことで。
日向は、かつてバレー部に入部申請するため、一目散に体育館へ向かった時にも負けないくらいの速さで、3組へとやって来たのだった。
女装姿の影山を見るために。
メイド服姿の影山を見るために。
結果、殺気立たせた影山の手に捕まり、逃げる間も無くヘッドロックをかけられた訳だが。

「いでででででギブギブギブッ!!」
「来るなっつったのに来たってことは、死ぬ覚悟ができてたんだろ、なぁ?」
「マジすんません調子乗りました許してください」

ご主人様にプロレス技をかけるメイドさんなんて、新しいな。
なんて、呑気に考えている場合じゃない。
日向は、影山に思い切り頭を締め付けられながら、半ば死にそうな声で必死に謝り倒す。
その声に、影山は眉間にしわを最大限に寄せ、チッと舌打ちをするも、渋々解放してくれた。
日向は「いててて」なんて呟きながら、未だ般若顔を貫いているであろう影山に視線を送る。
が、しかし。

「っ、!」

恐ろしい形相は、一ミリも変わらなくとも。
よく見れば、影山の顔が耳まで真っ赤に染まっていて。
日向は息を詰まらせながら、つい長々と見つめてしまう。
その顔は、怒って真っ赤になったというのではなく、"照れ"とか"羞恥"とかいう気持ちがじわじわと滲み出ていた。

「見てんじゃねぇ、ボケ」
「! …す、すまん」

影山は、日向に自分のこんな姿を見られてしまったことが、恥ずかしくて仕方ないようだった。
あれほどに"学校祭"という単語を嫌がったのも、日向が自分のクラスに足を運ぶことを拒否したのも、全てはこうして女装をした自分自身を見られたくなかったから。
恋人に、こんなみっともない姿を晒したくない。
それが、影山の男としての願いだったのだ。
だから、事前に日向には「来るな」と釘を刺していたのに。
こうして突然来られて、しかもこんな思い切り爆笑されては、影山とて我慢できる訳も無く。
ヘッドロックをかけたくなる気持ちも、分からなくは無い。

「たっく、クソが」
「あ、の。かげやまっ」
「だから、お前にゃ見られたくなかったのに」

だけど日向は、そんな風に恥ずかしがっている影山を見て、何故だかドギマギした気持ちになってしまう。
可笑しいな、何でだろう。
こんな影山を見たのは、初めてだからだろうか。
そう思いながらも、普段だったら絶対に見ることのできない姿の影山を見て。
いつもの余裕こいた仏頂面が、林檎みたいに真っ赤になってて。

「…!」

影山のことが、何だか可愛く思えてしまったのだ。
自分よりデカい恋人が、こんなフリフリヒラヒラなメイド服を着て、ゴツい生足を出して。
こんなにも恥ずかしそうに、嫌そうにメイド服を着ている影山を、可愛いと思ってしまった。
そんなに嫌ならば、断ってばっくれても良かっただろうに。
影山の鋭い三白眼でひと睨みすれば、大抵の人間はビビって逃げ出すと思うのに。
影山はこうして、今回の仕事を引き受けている。
大方、クラスの女子達に無理やり頼み込まれたのだろう。
女子の勢いに押されて、断るに断れなかったのか。
それとも、クラスのために頑張ろうって思ったのかな?
あの、自分のことばっかりだった影山が。

「…ふはっ」
「なっ!」

そう考えると、日向の胸はほっこりあたたかくなる。
さっきまでは、腹を抱えて爆笑しまくっていたくせに。
こんな無愛想なメイドを可愛いと思ってしまうなんて、自分もいよいよ病気みたいになってきたかもしれない。
なんて、日向は顔を綻ばせた。

「お前、今また笑っただろ」
「! いや、違うって!」
「ああ!?何が違うんだボゲェッ!!」
「ギャーッ!!」

そんな日向の微笑みに、影山はまたバカにされたと思ったのか、こめかみに青筋を立てながら日向に飛び掛かろうとする。
日向は「またヘッドロックかけられる…!!」と思い、影山の手から逃れようと、取り敢えず走って逃げた。
生徒達が作業をしている廊下を、全力疾走で。
逃げれば当然、影山も追ってくる訳だが。
作業中の生徒達は、二人の追いかけっこに何だ何だと目を丸くする。
だけど、二人にとってはそんなことお構い無しだった。

「待てや日向ゴラアアアアアアアアアアアアッ!!」
「ちょっ、誤解だって影山っ!オレは別にバカになんかしてないからっ!」
「じゃあさっきの笑いはなんだ!?」
「そ、れはっ、…ぐぇえっ!!」

二人は、長い廊下を駆け抜けて。
とにかく避難しようと駆け込んだのは、使われていない空き教室。
そこに入ってドアを閉めて影山から逃れようと、日向はそう考えて飛び込んだのだろう。
しかし教室に一歩足を踏み入れた所で、影山の手が日向の襟首を掴んだ。

「うおっ!?」

すると自然に日向の首が締まり、反動的に足も止まって。
おまけに、二人まとめてその場にすっ転んでしまう。
先に転んだ日向の上に、影山が覆い被さる体勢で。
ドッターンッ、という衝撃音と共に、細かな綿ぼこりがフワフワと舞った。

「っててて…」
「…」
「おまっ、急に襟首掴んだら危ねぇだろっ、うっ、が…」

…そう。
力技で捕まえに来た影山に、一言文句でも言ってやろうとした日向だったが、その言葉は途中で途切れてしまう。
床に倒れた後、身体を起こそうと顔を上げた瞬間、自分の上に覆い被さるように倒れてきた影山と、バッチリ目が合ってしまったから。
その距離は、思っていたよりも近くて。
影山の海の底のような綺麗な色した瞳が、ジッと日向のことを見据えている。

「か、げやま…っ」
「…誤解だ?バカにしてないだ?」
「へ?」
「じゃあ、なんて思ってたんだよ」
「っ、」

影山が、低いトーンでそう問い質す。
日向の耳元に唇を近付けて、半分吐息のような声音で囁く。
その全身が痺れるような甘い声に、日向は首から上がカッと一気に熱くなった。
今すぐ影山を押し退けてどこかへ逃げてしまいたいのに、指先すら動かせなくなる。
影山は日向の心を引きずり出そうとするように、コツンとおでことおでこを合わせ、再度言葉を発した。

「なあ」
「ぇ、あ…」
「言えよ、日向」
「…っ、かっ」
「あ?」
「影山がっ、かわ、いいって…」

至近距離で見つめられながら、日向は思っていたことを、辿々しい口調で影山に伝えた。
影山の顔を、上手く見ることができない。
心臓が、ドクンと跳ねる。
身体の内側は、どんどん熱を帯びていくようだ。
先ほどの、影山を「可愛い」と思っていた時とは違う。
こんなに可愛い格好をしているのに。
恥ずかしそうに顔を赤らめていたのに。
影山は、こんなにもオトコの顔をしている。
それを改めて再確認し、日向は堪らない気持ちでいっぱいになった。
すると影山は、少し不服そうに唇を尖らせる。

「可愛いってお前…そんなこと言われても嬉しくとも何ともねーよ」
「そりゃ、そうだろうけど…」
「それともお前は、俺が女の方が良かったか?」
「バッ、んなわけ…っ!!」

影山の言葉に、日向は思わず逸らしていた顔を上げた。
そんなわけあるかと。
影山が男だろうが女だろうが、そんなこと関係無いと。
そう言って、影山に反論しようとした。

しかし、その瞬間。


「…っ、!」

日向の唇が、あたたかく柔らかいもので塞がれる。
ぼんやりと目の前に見えるのは、影山の伏せられた長い睫毛。
日向の顔を擽るのは、重力で垂れてきた影山の綺麗な黒髪。
そこでようやく、影山にキスをされたのだと気付いた。
日向は目を閉じることも忘れたまま、ただただその行為を受け入れた。
スルリと優しく髪の毛を撫でられ、日向の肩がほんの少し震える。

…そして。


「…どうだ?女に攻められる気分は」
「っ、…バーカ」

唇と唇が離れた瞬間。
口角を少し上げながら、皮肉めいた台詞を吐く影山に、日向はか細い暴言で精一杯の反論をした。


悔しいことに。
本当に本当に悔しいことに。

いくら女装をして可愛くなろうが、何だろうが。
影山飛雄は影山飛雄なのだということを、日向は痛いくらいに思い知ったのであった。





*おまけ*



後日談。
他のメンバーに見つかった影山。

「グァハハハハハハハハハハハハハッ!!」
「ナイス影山っ!ナイス女装っ!その勇気に乾杯だ!!」
「田中さん西谷さん、笑うか泣くかどっちかにしてください」
「え、王様がメイドとかギャグ?どっちかっていうと奉仕される側なんじゃないの?あと、ミニスカは無いわ流石に」
「月島ほんとマジでコロスぞ。つーか見に来てんじゃねーよ」
「俺は似合うと思うぞ、影山!」
「あ、ありがとうございます」
「な、日向もそう思うよな!」
「…へ?」
「あれ?なんか日向、顔赤くない?大丈夫か?」
「っ、何でもないですっ!!」


(ひーっ!メイド姿の影山を見る度にあの時のキスが蘇って妙な気持ちに…なんて言えねええええええええっ!!)
(この衣装借りれっかな…後で日向に着せよう)










ーendー



みの様、こんにちは^^*
この度はリクエストありがとうございました!
企画に参加していただき、とっても嬉しかったですっ!
リクエスト内容は、「影日で影山が女装する話」とのことで、美味しいネタをありがとうございます(笑) 実は影山女装ネタはずっと前から書きたいと思っていたので、リクエスト頂いた時テンションが上がってしまいました^///^←
しかし書きたいことをいろいろ詰め込みすぎて結果グダグダな文章になってしまい、申し訳ありません…っ!もっとメンバー皆でわちゃわちゃした感じにしたかったのに…完全なる力量不足です(;_;)
書き直しはみの様のみ、いつでも受け付けますっ!何なりとお申し付けくださいっ!
お持ち帰りなどはご自由にどうぞ^^*

それでは改めて、リクエストありがとうございましたっ!
これからもサイト運営頑張りますっ!



byおたま









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おたま様のサイトの10000htでのリクエスト企画でリクさせて頂いたものです。

ひええ素敵な影日ちゃんをありがとうございます…!!ついお持ち帰りさせていただきました;影山が女装してもやっぱり影山でもう最高です;;
本当にありがとうございました!

みの

2/6
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