笑み綻ぶ夏の暑さ
テーブルの上に置かれた涼しげな硝子の器の中は、少し光が当たってきらきらとしている。光を反射する透き通るような球体の上には、とろりとした餡蜜。その上からは、芳ばしい色をしたきなこがまぶしてある。少し触れただけでも崩れてしまいそうなこれは芸術そのものなんじゃないかな、と思いながらスプーンでそれを掬う。その様子を見つめていたらしい月島は、こちらを見据えて意外そうな顔をした。
「…君、和菓子が好きなんだね」
「ん、だって美味いじゃん」
程よい甘さで、生クリームやカスタードとは違う自然の甘さ。そして洋菓子に負けず劣らずの見た目の鮮やかさは、それはもう誇るべきだと思う。
「へえ、意外。もっとケーキとかで喜ぶお子様かと思った」
「違うし!!…昔っから買ってきたりして家にあったお菓子ってこんな感じだったからさ、洋菓子のあの着飾った甘さ?みたいなの少し苦手でよー」
「………チビにしては随分と大人っぽいこと言うじゃない」
「痛い!頭掴むな、へこむ!!」
じりじりと月島の長い腕が伸びて来たと思ったら、ガシッと掴まれて鷲掴まれた。圧迫感半端ない、めっちゃ痛い。
俺が和菓子を好きなように、月島はショートケーキが好きだ。そう、俺が苦手とする洋菓子だ。月島は俺が洋菓子についてちょっと言ったため、ムカついたのだろうかぐぐぐ、と俺の頭を掴んだのだ(と推測した)。
「ギブ!やめろギブ!洋菓子も美味しい!!」

「…そういうことじゃないし」

あれ、貶したこと撤回しろってことじゃないのかよ。そう思って居ると、月島の腕は離れ、テーブルに肘をついてはぁと溜息をするのが見えた。こういう少しの動作も、様になってしまうのだ。イケメン超憎い。そう思って居ると月島が口を開いた。
「じゃあなんで、僕との買い物について来るのさ。嫌なら嫌って言いなよ」
「…うん?」
あぁ!と思い出すように手を打つ俺に、月島は眉を顰めた。
月島がショートケーキが好きなのは前述述べた通りだが、それに比例して、美味しいケーキの店を探すことも好きなのだ。誰もが知っているようなちょっと有名な店だったり、あるいはどこから情報が入るのかと思うくらいマイナーな店にも足を運ぶ月島に、毎回俺は連れられていた。何故か、というのはケーキの店はやはり女性向けのような店が多く、男でしかも長身でイケメンのギャップで買いに行くのは気が引けるのだろう。だから俺を口実にして月島は買いに行くのだ。でもその買ったやつをおすそ分けしてもらえるので俺的にはメリットがある。
でも、今ここで言った和菓子が好きというのは月島も知らなくて、(しかも洋菓子が苦手と言ったし)それなのに連れ回して、食べさせて…と月島の罪悪感でも煽ったのだろうか。首を傾げて居ると、月島は目を伏せながら言った。

「…もうケーキは一人で買いに行くよ、今度日向の和菓子でも一緒に買いに行こう」

そう言った月島に、俺はなんだか寂しい気持ちになった。
「…それは、やだ!」
「は?」
だって、一緒に買いに行けるなんて恋人みたいじゃないか、実際恋人だけど。一緒に選んでる時の月島の顔も、傍から見たら無愛想な顔に見えるけど、いつもより楽しそうだし、色とりどりのケーキを見ている時の顔は、実は少し子供のように目を輝かせているのを、近くで見て分かるようになった。全部全部、きっとバレー部のみんなや、月島に想いを寄せる女子はきっと知らない。もしかしたら、山口ですら知らないかもしれない。そんな自分だけの特権を放棄できない。月島に、近くなれることなのだから。
「だって、月島と一緒にいるの、楽しいし。選んでる月島、かわいいとか思ったし」
「うん」
「…それに!月島が買ってくれたケーキ、とっても美味かったし!!」
つまりつまりながらも言いのけてやると、月島はしばし沈黙した後、くつくつ、と笑い始めた。
「あーそう。日向、"僕と食べるケーキ"は美味しいの?」
「う、うん」
「ふぅん…なるほど」
じゃあさ、と机を指先でコツコツと叩く月島に、俺はぞわっとした何かを感じた。悪寒、と言うべきなのだろうか。それを察したのか月島は嫌味をいう時に見せる笑みをわざと俺に向けてきた。
「今度一緒にケーキバイキング行こうか。ちょうど新しい店舗出来たから、行きたいと思っていたんだよね」
「うぐっ!」
何てやつだ!こいつは思いやりと言う言葉を知らないのだろうか。折角スプーンで掬った葛餅を落としてしまった、サイアクだ、と言う意味を込めて睨みつけてやる、…と思ったのだが。
「………」
「何?」
月島が嬉しそうに目を細めているものだから、悪態をつけなくなってしまった。くそ、かっこいい顔しやがって。と唯一の抵抗でテーブルの下の足を蹴ってやるとガタッと机が揺れ、「イタッ、ちょっとやめなよ」と声が返って来た。
ざまあ、ともう一度スプーンで葛餅を掬って口へ運ぶ。
やっぱり、夏はこれだよなぁと思いながら目の前の月島を見ると、少し不機嫌そうに蹴られた足をさすってた。こっちには視線を向けていなかったようだ、よかった。

だって今ものすごく頬が緩んでて、月島と出かけること考えてきっと嬉しい顔してるだろうから。
そんな顔をあいつに見せるのはシャクだから、ナイショで。




end

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想碧空様へ
相互記念で頂いたリクの月日です。遅くなってしまい申し訳ないです…。
夏にいちゃついてる二人を書きたかったのですが違う感が;
ではでは相互ありがとうございました!
お持ち帰りは想碧空様のみどうぞ。

14 0713
蜂蜜レモンと砂糖:みの





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